春季キャンプがスタート…ブルペン投球を繰り返すも「いいわけではないです」
“いい人”であることを、やめる。プロの世界で生き残るために、目いっぱいの決意を固めている。「自分にわがままに」と話すのは、板東湧梧投手だ。
2月1日から春季キャンプが始まった。昨年1軍登板のなかった板東はB組スタートとなり、第1クールから精力的にブルペン入り。1月には大阪で、神経学について知識を深めて再起のヒントを探してきた。“球春”は選手にとってもユニホームを着始める時期であり、自主トレで培ってきたことを“答え合わせ”するタイミングだ。現状の感覚については「ちょっとずつという感じ。めちゃくちゃいいわけではないです」と試行錯誤を重ねている。
昨年限りで現役を引退した和田毅氏が「球団統括本部付アドバイザー」としてキャンプ地を訪れていた。第1クール、全体練習が終わった後の個別の時間。自主トレをともにした和田氏と板東が、2人きりでブルペンにいた。長時間、ネットスローなどを繰り返して、打開策を探した。別の日には倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)と数十分、話し込む姿もあった。
周囲がこれだけ気にかけてくれる。まだまだ板東に期待している証だと思い、本人に胸中を聞くと意外な答えが返ってきた。それが「自分にわがままに」だった――。
「いい意味で自分は、あまり期待されているとか感じないようにやっています。B組ですし、いい意味で『期待に応えよう』とかではなくて、ただ自分にわがままにというか。そう思ってやっています」
1月の後半から、東浜巨投手とファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で自主トレをともにした。自分自身の状態は決して良くない。当時も「悪影響を及ぼしたら嫌だと思ってしまっていた。でも、もうそんなこと言っていられないので、わがままを通させてもらいました」と話していた。絶対に時間は守る、取材対応はいつも丁寧。実直な板東という男が口にする「わがまま」には、どんな意味が込められているのか。
「それが1つの課題、1番の課題です。1人のプロ野球選手として、人の目とかも気にしてしまうタイプなので。そこを1回、ずっと課題ではあったので、そういうところから変えていこうと。とにかく自分にわがままに、です」
誰しもがアマチュア時代はチームの中心だった。十人十色の経歴で、選手たちはプロの世界に飛び込んでくる。成績が年俸に反映され、結果を残せなければクビになる。常にイスを奪い合い、プロ野球は発展してきた。「これまでは優しすぎた?」と聞くと「そんないいものじゃないです。自分に自信がなさすぎる。プロ野球選手として、“いい人”じゃ生きていけない世界だと感じました。もっと自分を出していかないと」。具体的なきっかけは明かさなかったが、覚悟を決めたことは間違いない。
和田氏と長時間にわたり言葉を交わしたのも、板東から質問しに行ったから。「動いた結果が(周囲から助言をもらう)そうしてもらっている。逆に自分から行かなかったら、誰も何もしない。それも僕の課題です」。プロである以上、“待ち”の姿勢ではいけない。「1回目、教えてもらった時はもう1度、体の使い方を説明してもらいました。次の日は、細かく考えすぎてフォームが“ガチャガチャ”になっている。『何も考えずに投げられるようにやってみたら』って言ってもらいました」。知識が膨らみすぎることになるとしても、今はとにかく、どんなことも吸収していたい。
B組スタートとなったことには感情を隠さない。「当然かなと予想はしていましたけど。いざ発表されると悔しいし。クソッて思う気持ちはありました」。ここから逆転していかなければならない立場。空回りせず、今は自分の取り組みに集中できるように。「いいように自分の中で変換して、いい意味で期待されていないからやりやすいだとか、そういうふうに考えるようにしています」と話す。ここからは這い上がるだけだと言い聞かせている。
「(自分のことを)別にいい人と思っていないので、やめるというか。自分にもっとわがままにいきたいです。(積極性は)自分の中では意識して行動していますし、そういう発言をするように気をつけています」
春季キャンプといえば、選手とファンの距離感が近くなることも醍醐味の1つ。「B組にいて、去年1年間投げてもいないのに、こんなにも応援してくれているんだっていう温かさ、期待を感じる部分はありますね」。板東湧梧を信じている人が、こんなにもたくさんいる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)