調子が悪いとか、体にアクシデントがあったとかのレベルではない。山川はやるべき練習をしっかりとこなしただけだった。「今日はそういう日でした」。明かしてくれたのは、自らで厳密に設定している「線引き」、そして通算252本塁打を誇るアーチストとしての“繊細すぎる感覚”だった。
「今日は寒かったのと、ボールがちょっと古かったので、飛ばないボールを思い切り振っちゃうと、すごく変わっちゃうんですよ。そういう時はスピンだけを意識していますね。あとはバットの当たる角度。ボールの下にバットをポンと入れて、自分の目線くらいのライナーを打つというのも1つの練習。マシン打撃や室内で打つ時とかも、こういう練習ですね。ボールが新しい時や体の状態がよかったら、バンバン振って、という感じです」
確かに使い古したボールは反発力が弱くなり、飛距離は出なくなる。その知識はあったが、ボールの質によって打撃練習を変えている選手を見たのは初めてだった。古いボールを打つデメリットについて、山川はさらに続けた。
「使わなくていい力を使っちゃうっていうのが一番の弊害ですよね。そうなると逆に打球スピードって落ちますし。いろんな所に力みが出るとボールに力が伝わらなくて、それはそれで腹も立ちますし。見ているお客さんは、もっと単純にホームランを何本打ったとかを見ると思うんですよ。だけど我々はこれだけ長くやってきて、それだけではないので」
山川が大事にしていることはもう1つある。それが打球にかけるスピンだ。「僕がここまでホームランを打ってきたのも、やっぱりボールに対してのスピン、回転を意識してきたから。もちろん、試合で全部の打球にはかけられないんですけど、その意識を持つことが大事」と強調する。
「ボールが落ちてこない打球を打とうとか、もう1つ伸びてくれたりだとか。そういう意識で日頃から打ち続けることを、僕はめちゃくちゃ大事にしているので。打席では意識できないですけど、意識の外で普段やっていることが出て、それによって1本ホームランが増えた、2本増えたって世界なので」
繊細すぎるほどの感覚と打撃理論が両立しているからこそ、4度の本塁打王を獲得できた。山川の打撃練習を見るときは、豪快なホームランだけでなく、思考を探ってみると一段と楽しめるに違いない。