鷹フルでは、外国人選手のサポートのために臨時コーチとして来日しているフリオ・ズレータ氏を単独インタビューしました。2006年オフ、チームにもファンにも愛された中、なぜ退団という決断に至ったのか――。19年の時を経て、その舞台裏を明かしました。思わずこぼれた涙……。インタビュー中に声を詰まらせた25秒の沈黙に、チームへの愛が詰まっていました。
帰ってきた古巣での時間を噛み締めるように1日1日を過ごしている。リック・バンデンハーク氏とともに臨時コーチとして春季キャンプにやってきたズレータ氏。2月1日から9日までは、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で若鷹に熱視線を送る予定だ。ホークス“復帰”のオファーを受けた時、率直にあふれてきたのは喜びの思いだった。
「長い間、望んできたことがやっと現実になりそうだと思って、すごく嬉しかった。ホークスは日本に来るきっかけになったチームでもありますし、今の自分があるのもホークスのおかげです。いつか恩返ししたいと、ずっと思っていました」
チームを去って19年の月日がたったが、思いは褪せていなかった。「選手は入れ替わっていますが、一緒にプレーした選手たちが今コーチになっていて、また次の世代に伝えていることにすごく感動しています。自分自身も若い選手たちに一緒にパスしていけたらいいなと思います」と胸のうちは熱い。斉藤和巳3軍監督をはじめ、大道典良3軍打撃コーチ、金子圭輔3軍内野守備走塁コーチ……。月日は流れて、一緒にプレーした経験がある人物が、今は指導者になっている。多くの旧友と再会できたことを喜んだ。
2003年6月にダイエー(当時)に入団。シーズン途中加入ながらも13本塁打を放ち、その年の日本シリーズでも躍動した。計4シーズンで454試合に出場し、122本塁打、333打点をマーク。本塁打を放った際の「パナマ運河」パフォーマンスは、多くのファンにも愛された。ところが、2006年シーズン限りでズレータ氏はチームを去った。結果を残しながらも、退団することになったのはなぜだったのか。今だから、舞台裏を明かせる。
退団を決断せざるを得なかった理由について「プロ野球という世界の宿命でもあるので、受け入れるしかなかったんです」という。契約社会なのだから、大切な評価基準の1つが金銭面。当時、ズレータ氏は代理人を通して球団側と交渉を行っていた。自身のもとまで詳細を知らされることはなかったが、提示されていた内容は、望んでいたものと“乖離”があった。その契約を飲むことができなかったのは、自分への妥協を一切許さず、プライドを持ってプレーしてきたからだ。どれだけチームへの愛着があったとしても――。
「本当に、表現できないくらい辛いことだったんです。しばらくの間は引きずりました」というズレータ氏。当時のことを思い出すと、今でも言葉に詰まる。それほどホークスとの別れは、苦渋の決断だった。福岡を愛していたことは、19年たった今も胸を張って言える。
「プロ野球では、やはりビジネスの話をどうしてもしなければならない。プレーはプレーですが、契約の話はビジネス。自分が望んでいたオファーは来なかったですが、それもそれということなんです。チームのことを嫌いになるとかそういう気持ちは全くなかったので、ホークスへの愛っていうのは、何も変わりませんでした」
2007年からはロッテに移籍し、その後に現役を引退した。今回は短い時間だが、臨時コーチとして一時復帰することになった。「以前から、できることならホークスで永遠にプレーしたい気持ちがありましたけど、こうやって呼んでもらって、ここに戻ってくることができて……。常にホークスから離れたくないという気持ちは今もずっと持っています」。熱い告白をすると、ズレータ氏は目頭を押さえてうつむいた。25秒の沈黙……。堪えきれず、声を詰まらせた。
静かに深呼吸をして、言葉を続ける。大好きな古巣のために、これから少しでも力になりたい。
「自分は長い間、野球を続けてきて、いろんな経験をしました。学んできたことを今、頑張っている若い人たちと共有して、案内役として導いてあげることができたらいいなと思っています。僕が若い頃にはそうやって導いてくれる人は身近にいなかった。もしこうやって近くに呼んでもらえるのなら、間違いなく、自分が今まで学んだこと全てを彼らと共有して、次のレベルで成功できるようなお手伝いをしていきたいと思っています」
こんなにも熱い思いを今も抱くのは、福岡での素晴らしい思い出が胸に刻まれているから。「選手だった時も、1人も嫌いな人なんていなかった。みんなのことが大好きでした。彼らも自分のことを愛してくれていましたし、19年がたって戻ってきたら、今も家族のように迎えてくれるじゃないですか。こんなスペシャルなことはありません。本当に幸せです」。積み上げられてきたたくさんの思いを口にすると、ズレータ氏の瞳には再び光るものがあった。涙なしには語れないほど、ホークスはかけがえのない場所だったのだ。
臨時コーチとして、熱心に若鷹たちに声をかけ、アドバイスを送るズレータ氏。そんな実直な姿を見て、球団の国際部スタッフは「彼らを呼んで本当に良かった」と目尻を下げた。第3クールからは宮崎入りし、引き続き臨時コーチを務める。3月23日に開催されるOB戦にも出場予定だ。愛するホークスと、温かく迎えてくれたファンのために。愛される助っ人の恩返しはまだまだ続く。