倉野信次コーチ単独インタビュー第2弾…甲斐拓也の移籍は投手陣にどう影響する?
鷹フルは、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)の単独インタビューを行いました。第2回のテーマは、甲斐拓也捕手の存在です。正捕手として長らく君臨してきた背番号19の移籍は、投手陣を引っ張っていく上でどのような影響を与えるのか? 倉野コーチが伝えた言葉、そして「かなり大きい」という要因に迫っていきます。
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2024年、ホークスはリーグ優勝に輝いた。課題とされていた投手力は大幅に改善され、チーム防御率2.53、失点「390」、被安打「980」など多くの成績がリーグ最少だった。倉野コーチも「先の先までしっかりとシミュレーションをして、いろんなことに対応できた」と、手ごたえを口にする。2022年から2年間、米国でコーチとして修行を積んだが、いきなり効果は数字となって表れた。

単独インタビューに応じた倉野信次コーチ【写真:冨田成美】
チーム成績の中でも、暴投「18」に注目したい。これもリーグトップで、2位はオリックスの「22」。6位はロッテの「43」だった。投手の制球力はもちろん、捕手のブロッキング能力に比例するであろう数字。投手と捕手の共同作業で、バッテリーミスを減らしてきた1年でもあった。
甲斐は昨シーズン、119試合に出場。ゴールデン・グラブ賞も7度受賞するなど、ホークスを支えてきた。国内FA権を行使して、今春のキャンプからは巨人のユニホームに袖を通している。正捕手の移籍は、投手陣にどんな影響をもたらすのか。倉野コーチは「かなり大きいですよ……」と、少し渋い表情で語り出す。
「盗塁阻止率とか、そういうものって実は変わらないデータもあるんでしょうけど。ブロッキング、あとはホームベース周り。打球を処理する能力は、世界でもトップレベルだと思っているんです。僕はアメリカも経験しましたけど。世界でトップクラスの、ブロッキングとフットワークです。そこの面は当然、(移籍の影響は)あるんじゃないですかね」
倉野コーチの指導者としてのキャリアは、2009年からホークスで始まった。2010年育成ドラフト6位で入団した甲斐を「僕は拓也が入ってきた時から知っていますからね」と懐かしそうに頷く。米国で2年間の経験を積んだことで、海外の捕手たちも目にしてきた。「僕がアメリカから帰ってきた時に、一番に『お前のブロッキングは世界一やぞ』って言ったのは覚えていますね。それくらいすごいです」。異国の野球に触れたからこそ、甲斐本人に思わず「世界一」だと伝えたくなった。
盗塁阻止は捕手の肩や球さばきだけではなく、投手のクイックや目配せも重要になる“共同作業”。それよりも送球の正確さや、絶対に後ろにそらさない守備力に倉野コーチも注目していた。「かといって、今のホークスのキャッチャー陣を信用しないわけではないですよ。それはもちろん。信頼感というところでは、他のキャッチャーの人はこれから一緒に作っていくんだと思う」と話す。一方で「それだけのものを、甲斐拓也という選手は築き上げたわけですから」と、その存在感には改めて唸るばかりだった。
有原航平投手も、これまで組んだ捕手の中で甲斐が「一番」だと言い切っていた。「どこにランナーがいても、落ちる球を下に狙って投げられる。そういう気持ちで腕を振れるので、いいボールが投げやすいです」。メジャーリーグでも経験豊富なロベルト・オスナ投手も「信頼は変わらない。僕のキャリアでも1、2を争う世界一のプレーヤー」と語っていた。マウンドにいる投手と同じく、首脳陣も厚い期待を寄せていた。
春季キャンプは、1年間の礎を築く1か月。バッテリーのコミュニケーションも取りながら、お互いの理解を深めなければならない。倉野コーチは「まだ始まったばかりですからね。これからです」と言いつつ「甲斐拓也という名前で、抑止力になっていた部分も当然ある。味方の安心感にもなっていただろうし、それは認めざるを得ないですよね。だからこそ、ここからバッテリーで築き上げていく楽しみはあります」と今後を見据えた。勇気を持って投げてもらうためにも、密なやり取りは絶対に欠かせない。
「お前は世界一やぞ」。その言葉に、甲斐拓也という選手の偉大さが詰まっていた。「バッテリーは共同作業なので、そこはみんなでやっていかないといけないと思います」。今年もパ・リーグでトップクラスの投手陣を築き上げるために、倉野コーチは足元を見つめていた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)