東浜と自主トレをやってみたい…実は数年前から抱いていた板東湧梧の思い
「今回は、自分のわがままを通させてもらったというか……。お願いして、快く受けていただきました」。板東湧梧投手は、充実感に満ちた表情で汗を流していた。現在、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で練習をともにしているのが、東浜巨投手だ。寝食から同じ時間を過ごす“合宿”スタイル。先日までは別々でトレーニングしてきた2人だが、板東がお願いする形で、合同トレーニングが実現した。
食事面にも気を遣いながら、オフ期間でも徹底した生活を送る先輩右腕。数年前から板東は、間近で東浜の取り組みを見てみたい思いがあった。
昨季の戦いが終わってから、その思いはより強くなった。板東は「巨さんが12月からずっと筑後で練習をされているのも見ていましたし、その前から昨シーズンの状態とかめっちゃいいなと思っていたので、どういったことに取り組んでいるのか詳しく聞きたいなって、実は思っていたんです」と語る。朝早くから長時間にわたり、黙々と練習に打ち込んでいた先輩の背中には大いに刺激を受けた。だから迷うことなく、頭を下げた。
当初から板東は、大阪のジムで自主トレをする予定があったため、筑後に戻ってきてからスケジュールをともにできませんか、とお願いした。東浜の目線では「板ちゃんから昨年末に声をかけてもらいました。基本、僕から声をかけることはしないです。そこは自分のスタンスというか、プロは1人の個人事業主ですし、みんながライバルなので、過度に馴れ合う必要もないと思っています。その中でも、やっぱり来てくれる選手には惜しみなく一緒に付き合って、向き合いながらやりたいですから」と明かす。後輩の気持ちを真っすぐに受け止めた。
それだけではない。板東にはどうしても、東浜と練習したい理由があった。
「巨さんとキャッチボールしたいっていうのが一番大きかったですかね。巨さんは、技術のレベルがものすごく高いんです。僕は本当、まともに投げられていないので、ちょっとでも吸収したくて。キャッチボールのいい選手とすると、自分もいいイメージが湧きますし、僕のわがままなんですけど、無理を言って『キャッチボールお願いできませんか』って相談して、一緒にやってもらいました」
昨季は2軍で過ごした板東と、シーズン途中からファームでの再調整を余儀なくされた東浜。過ごす時間は必然的に多くなり、一緒に肩を温める機会も増えた。「キャッチボールするか」と声をかけられたこともあった。それでも「僕は引け目を感じながら、申し訳ないなという気持ちでした」と、嬉しさの中に複雑な感情を抱いていた。
「自分の状態のせいで、ちょっとでも悪影響を及ぼしたら嫌だなっていうのがあったんです。シーズン中はそういうのを結構思ってしまって、あまり人とキャッチボールしたくないなって気持ちでした」
2024年は、2軍戦でも最速145キロにとどまるなど、自身のことで精いっぱいなシーズンだった。どんな投手でも大切にする毎日のキャッチボール。だからこそ、苦しんでいる自分と練習することで悪影響を与えるのではないか――。申し訳なさすら抱いていたが「もう本当にそんなことを言っていられないですし、今回は自分のわがままを通させてもらいました」と意を決して“弟子入り”を志願した。
実際にキャッチボールを通して1球1球、気付きを与えてもらった。板東が「ダメだ」と思った球にも、東浜はきっちりと指摘してくれた。先発候補としてはライバルになる存在でもあるが、後輩右腕は「それはおこがましいというか。巨さんはもう長年、第一線でやられていますし、やっぱり全然レベルが違うので」と敬意を示す。当然、ライバルだと認識して食らいついていく覚悟だが、先輩の偉大さを再認識していた。
東浜の「僕から声はかけない」というスタンス。板東は枠を争う存在でもあるが「それとこれは別だとも、思うんです。選手としてというよりも、人として、しっかりお互い高めていけたら」とキッパリ言った。「自分もオフにいろいろ、施設に行ったり勉強して、インプットはするんですけど、なかなかアウトプットする機会はない。そういう意味では、僕にとっても認識が深まるので、お互いにとっていいことかなと。むしろ板ちゃんがジムでどういう練習してきたのか気になるし、僕にもプラスになると思います」と、学ぼうとする姿勢は貪欲だった。
それぞれ積み上げてきた経験は異なるが、ともに今季が“勝負の年”になることは間違いない。学び合い、高め合ってきたこのオフの取り組みが花開くシーズンになることを願う。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)