移籍後では初となる単独インタビュー…第1回のテーマは「1年前の不安」
ソフトバンクの山川穂高内野手が、単独インタビューに応じました。2023年オフ、西武から国内FA権を行使してホークスに加入したスラッガー。鷹フルの単独インタビューは、移籍後では初めてとなりました。3日連続公開の1回目、テーマは「1年前の不安」です。34本塁打を放ち、タイトルを獲得した2024年。自らが印象的だと挙げたのは、開幕戦で放った1号ソロでした。
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久米島、沖縄本島での自主トレについて、精悍な顔つきで手ごたえを語る。「この時期は質よりも量。どう生きてくるかというのは、正直わからないです。自分の中で『これだけやったから』『みんなよりは絶対にやっている』と思ってやり続けるものっていうのは、大切なものだと思いますから」。春季キャンプでは首脳陣からS組に指定され、2月15日から本隊に合流する。スケジュールを逆算しながら、体を作り上げているところだ。
西武時代の2023年5月、強制性交等の疑いで書類送検され、8月には不起訴処分となった。公式戦の無期限出場停止処分も重なり、17試合出場、0本塁打に終わる。オフに国内FA権を行使して、誰も経験したことがないような道をたどって、新戦力として福岡にやってきた。ホークス1年目は全143試合に4番として出場し、本塁打王と打点王(99打点)の2冠を獲得。リーグ優勝に貢献したが、1年前を振り返れば胸中は「不安」だったという。
「正直、去年とは違います。去年はわからないし、ソフトバンクというチームに入って、どういうキャンプをするのかって、自主トレ中も不安を持つしかなかった。でも今回は、小久保(裕紀監督)さんたちと1年間戦って、選手もそうですけど、会った時に『初めまして』って言わなくていいので、その関係性がいいですよね。優勝したメンバーとこれからまた戦っていけるのは、楽です」
ホークスが2月にどんな取り組みをするのか、まだわからなかった2024年1月。自分自身のコンディションにおいて、どれだけアクセルとブレーキを使い分ければいいのか、わからないから「不安」だった。今年は「久米島、嘉手納という場所で自主トレもして、すごく環境も良かったので。充実した自主トレになったし、キャンプもいけるんじゃないかなと思います」と語る表情からは、充実感が伝わってくる。
「知らないところに行くというのは、大学に行く時もそうでしたし、プロに入る時も経験した。右も左もわからないところからスタートするのは、慣れてはいるものの、どれくらいやった方がいいのか、わからないじゃないですか。そういう意味では、ソフトバンクのキャンプがどんなものっていうのもイメージできるし。今回は2月15日から合流ですけど、そこまでにどうすればいいのかプランも立てやすいですから」
山川を獲得することに、ファンからは賛否の声が上がった。迎えた2024年2月、待望のキャンプイン。ファンから「一体、どれほどの選手なのか」という“評価の目”は一身に感じていたという。「まあでも、それは思っても仕方なかったので。期待されている、されていないとか、感じてはいましたけど、感じないようにしていたわけでもなく。自分ができることは限られていましたから」。足元を見つめるのも、山川らしい。感情と重圧を背負いながらも、左右されることなく球春を過ごした。
3月29日、オリックス戦。京セラドームでの開幕戦が「ホークス山川」の第一歩だった。同点のまま試合は進み、7回無死で打席に立った。150キロの直球を弾き返すと、右中間への1号ソロ。決勝点となり、チームを勝利に導いた。移籍後、初本塁打に山川は「逆風だとか、批判だとか、自分の全てが詰まっていた」と語っていた。自分の歩みも含め、重圧を跳ね返した一撃だった。
「あれは本当に。チャンスで打つ、打たないとか、試合展開もありますけど。あの3打席目のホームランで、あの試合に勝ったわけじゃないですか。点差を守り切った投手もいるし、抑えとか守備の一連の流れがあるにしろ、開幕戦で、あの大仕事。ホームランを打つことによる仕事はできたので。あそこから何試合かホームランは出ませんでしたけど、思い返してみると、あれはよく打てたなと思います」
これが通算219本目のアーチ。試合後には「やっている最中ですから」と語り、結果を出すことに集中していた。印象に残った理由も「思い返してみると、ですよ。強いて言えばあれが一番、去年にとっては良かったかなっていう」。終わってみれば、レギュラーシーズンでは34本塁打を放つ。自分のとって1本に過ぎなかった感覚はあるものの、4番としてリーグ優勝に貢献したのだから、重圧も「不安」も、自分の力で払拭してみせた。
移籍するまでの経緯や、主砲として試合に出続けたこと。多くの意味で、ファンからの視線を感じていたはずだ。ホークス1年目が終わり、今も背負っているものを、こう表現する。
「周囲からの期待というのを、自分の中でちゃんと処理できる、期待に応えられる実力があればいい。僕ができることは限られているので、それ以上のものは見せられない。逆に言えば、期待されることもされないことも含めて、それは感情論じゃないですか。感情で物事を動かすことはないので、意味がないですよね。ここで絶対に打ってやろうとか、練習の時に思うべきことですから」
背伸びは絶対にしない。ファンの存在は何よりも大切であり、期待に応えたい気持ちは抱きつつも、信じるのは自分の実力だけ――。山川穂高というスラッガーの、プロ意識が詰まった言葉だった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)