頭をよぎる“引退”「今年ダメなら」 又吉克樹が明かす覚悟…地面に記す「正」の字

自主トレを公開した又吉克樹【写真:飯田航平】
自主トレを公開した又吉克樹【写真:飯田航平】

積み上げてきたランニング…「地球1周分は走っています」

 覚悟を持ってシーズンに臨むのはベテランも同じだ。又吉克樹投手は12年目のシーズンに向けて自主トレで体を追い込み続けている。これまでは1人だけで自主トレを行ってきたが、今年は大分・佐伯市で柳田悠岐外野手らと、ハードなトレーニングに励んでいる。

「キャンプでまだアピールする立場ですし。1つの枠をどうやって奪い取るかっていうことを考えながら、やれることをしっかりやっているところです。オープン戦で結果を残して開幕に入れたらいいと思うので。キャンプで自分が納得できる練習量をこなせるような体力を今つくって、2月1日に向かっていければいいかと思います」

 中日時代にやっていたティー打撃や、遊撃の守備位置に就いてノックを受けるなど精力的に動き続ける。自主トレのテーマは「メンタル」。多くのメニューを淡々と消化する中で行っているのが、かつてないほどの走り込みだ。「ポール間走だけでも、トータルすると地球1周分は走っていますよ」とランニング後に涼しい顔で語る34歳。増やしたメニューに込めた“意味”と、今季にかける並々ならぬ思いを明かした。

「練習も含めてですけど、悔いのないように1日1日をやり切ろう、と。今年は契約最終年ですし、ダメなら引退っていう文字もよぎってくる年なので。そういう意味では毎日毎日を『もうやり切ったな』と思って、練習を終われるようにしています」

 アップが終わり又吉が向かった先は、左翼のポール際。足元には、自主トレ中にポール間走を走った数を意味する「正」の字が無数に書かれている。20往復走ることを日課。十分な数字だとしても「ここでやめていいのか不安になる」と、それ以上まで走ることもあるという。現役の終わりがちらつき始めたこそ、絶対に後悔したくないからだ。

「やめることも簡単じゃないですか、自分で走る本数を決めているから。それが何に繋がるかは、わからないですよ。でもやってダメだったら納得できます。自分に勝った感覚があるんです。まだ追い込めるなって。あそこでやめんでよかったなって思いながら、毎日眠りについていますよ」

 佐藤直樹外野手や笹川吉康外野手らが参加する中、投手はただ1人。黙々と行うランニングは、自分自身を見つめ直す時間にもなっている。「『なんでやってんの? どうなりたいの?』って自分に問いかけることができる」。左翼と右翼のポールに向かって、フェンス際を繰り返し走り続ける右腕。「体が覚えているんです」。インターバルは必ず1分以内。タイムは片道35秒以内で駆け抜ける。ストップウォッチを持っていなくても、その時間に狂いはなかった。体が覚えている何よりの証だった。

ポール間走をする又吉克樹【写真:飯田航平】
ポール間走をする又吉克樹【写真:飯田航平】

 これほどまでに走り込むのは当然、理由がある。原点は中日時代。又吉が思い出すのは、当時アスレティックトレーナーを務めていた勝崎耕世さんのことだ。「よく走らされました。でも感謝しています。勝崎さんのおかげで、今こんなに練習ができています。若い時に走っていてよかったと思います」。20代の時に積み重ねてきた練習量が、今の自分を支えている。山本昌、岩瀬仁紀、山井大介……。自分が背中を見てきた先輩は、必ずランニングを大切にしていた。

「今年は見返したい」。両膝に手をつきながら、力強く語った。昨季は40試合に登板して1勝1敗、防御率3.54の成績でリーグ優勝に貢献。しかし、日本シリーズではベンチ入りできなかった悔しさを忘れることができない。「1軍に居続けて、結果それが通過できれば」と、残り「27」にまで迫った通算200ホールドの記録は、今季中の達成を視界に入れる。

 そんな又吉の姿には、柳田も目を細める。「10年以上プロ野球でやっている選手なんで、何が必要かっていうのはわかっていると思いますし。それをしっかりやっていると思うんで、大丈夫じゃないですかね」。野手とリリーフ、日々の接点は少なくとも距離感の近い2人。ひたすらに追い込む後輩右腕に頼もしさを感じている。

「もうダメなら引退ですよ。その気持ちで今やっています」。競争が激しいホークスの中継ぎ陣。限られた枠を若手投手と争う厳しさは自身が一番理解している。だからこそ又吉は34歳になっても、これまで以上の練習量を課す。「走った数は嘘つかない」。ベテラン右腕は今も、グラウンドに「正」の字を増やし続けている。

(飯田航平 / Kohei Iida)