前田悠伍の価値観が“激変”…今永昇太との日々 「その一言でパッと」、間近で得たヒント

カメラに笑顔を向ける前田悠伍【写真:竹村岳】
カメラに笑顔を向ける前田悠伍【写真:竹村岳】

鷹フルが単独取材…自主トレを終えて「めちゃくちゃ変わりました」

 テーマは、たった1つ。情熱と志に満ちた2週間を過ごした。ソフトバンクの前田悠伍投手は、高知県での自主トレを打ち上げ、福岡に戻ってきた。カブスの今永昇太投手から、どんなことを学んできたのか。「憧れというか、いろんな話を聞いてみたいと思っていた方と練習ができて、めちゃくちゃ変わりました。実りある期間にできました」。鷹フルの単独取材に応じ、約2週間のトレーニングを振り返った。

 昨年11月の契約更改、今永と自主トレを行うことを明かした。DeNAにいる松尾汐恩捕手は、大阪桐蔭高時代の先輩。間に入ってもらい、「プロに入ってからオフの自主トレのことも考えていて、和田さんのところも頭に入れていたんですけど、今永さんのところにいきたいと思っていました。自分の中で、合うなという直感があったので」と明かしていた。

 年が明け、空路で現地に向かった。高知駅で今永と待ち合わせしており、そこで初対面を果たした。「初めまして。ソフトバンクの前田悠伍です」。今永に加えてDeNA・森下瑠大投手と庄司陽斗投手、広島・森翔平投手の合計5人で自主トレは行われた。前田悠は最年少で「会うまでは緊張というか、どんな人なんやろうって思っていましたけど。そこからは大丈夫やなと思えていましたね」。明るい人柄にも惹かれて、特に人見知りすることもなく、鍛錬の日々は始まった。

 毎日午前6時起き。その30分後から、5人での散歩が始まる。「歩き終わったら朝ご飯で、全員でストレッチをしてから球場入りします。あとはキャッチボールとか、ノックをして、昼からはウエートでした。プールにも毎日入っていましたし、夜は温泉に行ったり」。高校時代から習慣づいていた早起きを、思い出すようにして日々を過ごした。全員で同じホテルに宿泊し、基本的に4勤1休で寝食をともにしてきた。

 技術的なテーマは「脱力」だった。力感のないフォームから、150キロ前後の直球を繰り出す今永の体。前田悠も「骨盤の安定がすごかったです。どれだけ上半身、下半身が動いても骨盤だけは全然ブレないです」と驚きの連続だった。体の中に鍛え上げた“芯”があるから、腕はついてくるような感覚で、球速を生み出せる。間近で見た直球の軌道こそ、一番の収穫となった。

「今永さんと言えば、フォームは軽い感じやのに、ボールは急に来る。一緒に練習して、どうやってそのギャップが生まれているのかわかりました。僕は真っすぐは真っすぐと思って投げていたんですけど……。言葉で表すと難しいんですけど、変化球のような感覚で真っすぐを投げたらギャップが生まれる。バッターは変化球を投げてくると思っているのに、真っすぐが来る、みたいな感覚で空振りを取ると言っていたので。全ては脱力というところに繋がってきます。僕の中でも、その一言でパッと変わりました」

 今永の球を打者目線、審判目線などさまざまな角度から“見学”させてもらった。「急にここ(バッターの懐)に来ている。変な感覚でしたね、キャッチボールみたいな投げ方やのに、気づいたら捕手の目の前にある感じで」。昨季、前田悠が記録した最速は147キロだったという。オフになり、直球の強さを課題に挙げ続けてきたが、大切なヒントを高知で得た。

前田悠伍【写真:竹村岳】
前田悠伍【写真:竹村岳】

「今永さんから言ってもらったのは、チェンジアップがいいということ。あとは『真っすぐ自体は普通にいいものがあるから、もっと悠伍は力を抜いても同じ球がいくと思う』って。本当にそのままの感じというか。力感がなくてもしっかりとボールが走るように、だからこそ脱力ですね」

 プロ1年目だった2024年は、ウエスタン・リーグで12試合に登板して4勝1敗、防御率1.94。1軍では防御率18.00と悔しさを味わったが、ルーキーイヤーからポテンシャルを示した。ホークスファンの誰もが、期待をかける19歳。そんな前田悠を預かってくれた今永は、どんな人柄だったのか。

「野球の時はめちゃくちゃ、僕らの質問にも丁寧に答えてくださるんですけど、急にふざけ出したり(笑)。毎日夜ご飯に行って、生活のほとんどを一緒にしていたんですけど、野球じゃない時はめちゃくちゃ面白い人でした。練習の時は目の色が変わっていたんですけど、ずっと小ボケを挟んだりして、笑いを取らないと気が済まないみたいな(笑)。『面白い人』っていう印象が強いですね」

 今永は、“投げる哲学者”とも呼ばれる。「ふざけている中に、真剣な時がある。それがミックスされた時に、そういう言い回しになるんじゃないですかね」と笑った。開幕ローテーション入り、そしてまずはプロ初勝利を目指す19歳。前田悠伍の2025年が始まった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)