今明かす“打倒今宮宣言”の真意 「現実にはならないだろうな」も…川瀬晃が口にしたワケ

ソフトバンク・川瀬晃(左)と今宮健太【写真:冨田成美】
ソフトバンク・川瀬晃(左)と今宮健太【写真:冨田成美】

今季プロ10年目「どうせ25歳とか26歳で終わるんだろうなって」

 今だからこそ明かせる「告白」だった。昨オフの契約更改。背番号を「0」に変えて臨むことを発表した川瀬晃内野手は、報道陣を前に高らかに宣言した。「ここ数年は『ホークスのショートは今宮健太』が当たり前みたいな感じで、そこを変えるのは至難の業だと思うけど、『ホークスのショートは川瀬晃』だという時代を作りたい」。先輩に力強く挑戦状をたたきつけた。

 あれから1年が経った。昨季は自己最多となる105試合に出場して打率.261をマーク。内野の全ポジションで先発出場し、プロ初のサヨナラ打を放つなど、存在感を示すシーズンとなった。一方で、今宮健太内野手からショートの定位置を奪うまでにはいかなかった。あの発言を今振り返ってどう感じているのか。その問いに対し、川瀬はゆっくりと口を開いた。

「壁なんか、最初からずっと感じてますよ。そんな敵うわけがない。実際、今になって言いますけど、もちろん現実にならないだろうなっていうのは思ってました。それでもレギュラーを奪うと口にしたのは、自分にプレッシャーをかけるため。お世話になった先輩だからこそ、競い合いたいなと思い始めたからです」

 当時、各社に「川瀬が今宮から定位置奪取を宣言」と報じられたが、いわゆる“リップサービス”ではなかった。「プロ野球選手はレギュラーを目指して誰もがやるし、そこを狙わない人なんて絶対にいないと思うので。ここからは毎年が“勝負の年”になるのは間違いないし、そういう発言をして自分を奮い立たせようと思ったんです」。

 今季プロ16年目を迎える今宮だが、今なお壁は高い。昨季は133試合に出場してベストナインに輝くなど、その実力は健在だ。だからこそ、挑む意味があると川瀬は語る。「今宮さんがいるから、自分も負けたくないって思う。今宮さんの自主トレに行かせてもらったことで、こういう関係になれた。それがなかったら、僕はすぐに弱音を吐く人間になっていたというのは絶対にあると思うので。本当にあの人の存在が自分を強くしているのは間違いないです」。尊敬を抱く先輩からポジションを奪ってこそ、初めて“真のレギュラー”だといえる。

 川瀬が感じる今宮のすごみ、それ類い稀なる精神力だ。「エラーをしても、打てなくても浮き沈みがない。技術がすごいのは当たり前なんですけど、1年間戦うのがレギュラーじゃないですか。ショートで143試合出るっていうのは、技術だけじゃ絶対にできないと思うんですよね。打っても打てなくても、メンタルが常に一定。悔しさを出さない芯の強さが今宮さんのすごさだと思います」。

 例え自らのミスで負けた試合であっても、今宮は変わらない。「『うわ、今日は機嫌が悪いな』って思ったことがないですね」。技術だけでなく、人間性を含めて首脳陣の信頼を勝ち取ることが最も大事だと思い知らされた。「長くレギュラーをやってる人、ギータさん(柳田悠岐外野手)とかもそうなんですよ。調子もあまり浮き沈みがないですね。だから、僕たちからしたら試合に出れれないんですよ」。

 川瀬にとっても今季はプロ10年目の節目となる。「ここまで野球をやれるとは思っていなかったですね。プロに入ってきた時も、誰よりも体も細くて。ボールもケージから出ないし、『大丈夫かな』ってすごく感じましたし。どうせ25歳とか26歳で野球人生が終わるんだろうなって感じでいましたね」。絶望すら覚えた1年目から、コツコツと力をつけてきたからこそ今がある。

「とにかく(春季)キャンプからしっかりとアピールして、スタメンで出る試合を増やしたい。信用、信頼される選手になるのが1番なので。『ここは川瀬だったら行けるだろう』とたくさん思わせて、信頼を得たいなと思っています」。チームに欠かせない選手となった時、初めて夢は現実のものとなる。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)