「今年駄目やったらもう無理やろ」 両親すら危機感…井上朋也が語る自らの“立場”

ソフトバンク・井上朋也【写真:飯田航平】
ソフトバンク・井上朋也【写真:飯田航平】

周囲に言われた「追い抜くなら同じところに行っても無理」

 背水の覚悟で臨む勝負のシーズンとなる。井上朋也内野手は5年目を迎える今季を「マジでラストチャンスです」と見据える。2020年ドラフト1位で入団した21歳。昨季は5試合の出場で10打数無安打と、結果を残すことができなかった。

 去年の自主トレは栗原陵矢内野手に弟子入りし、自身を高めようとした。だが、周囲からは厳しい意見が飛んできた。「いろんな人から『追い抜くんだったら、同じ(ポジションで争う選手の)ところに行っても無理だよ』って言われました」。その見方の通り、2024年シーズンは1軍で活躍する機会すら満足に得ることはなかった。

 そんな中で、年末年始に実家に帰省した際に、両親から伝えられた言葉をかみ締める。「最後に家を出る時も言われました」。福岡に戻る際にも同じ言葉を“2度も”掛けられた。

「もう親にも言われました。『ラストやから頑張りや。今年駄目やったらもう無理やろ。ラストと思ってやりや』って」

 苦笑いしながら話す井上。自身も立ち位置を理解しているだけに、そのメッセージは深く響いたという。両親の言葉と思いをしっかりと受け取り、今は正木智也外野手、西武に移籍した仲田慶介内野手らとともに自主トレに励んでいる。「戦っていく準備はしています」。そこには自身の目指すべき姿があった。
 
「仲田さんの練習量はホークスでも本当に1番多かったので。野球に対して熱いし、向上心がある人。もっともっと練習して、っていう感じで。僕はまだまだ、その立場なので」

 仲田がホークス時代に誰よりも練習に励んでいたことは周知の事実。仲田が移籍した今、井上は“ホークスで1番練習する選手”になることを目指す。1軍で結果を出すためには、まずはそこからだと足元を見つめる。

 私生活でも変化があった。「寮を出たんです。寮だったらご飯も準備してもらいましたけど、今は自分で生活していかなきゃいけない。自分の生活がプレーにも出ると思うので。心機一転じゃないですけど、私生活から整えていきたいなと思っています」。言い訳のできない環境の中で、どれだけ自らと向き合うことができるか。行動の一つ一つが今季の結果を大きく左右することは十分に理解している。

ソフトバンク・井上朋也【写真:飯田航平】
ソフトバンク・井上朋也【写真:飯田航平】

 主に三塁や一塁の守備に就く井上が戦う相手は強力だ。「山川(穂高内野手)さんも栗原さんも実績があるので。どちらを使うってなった時に、追い抜くか、一緒のレベルまでいかないと。ちょっと劣っているくらいだったら、実績がある方を首脳陣も選ぶと思うので。若さが取り柄ではあるので、そこは強みを生かして。一緒くらいのレベルまでいけないと、絶対に試合には出られないので」。

 現時点では見上げるような高い壁に対し、どのように立ち向かうかを必死に模索している。それでも、表情に悲壮感はない。「このオフシーズンは4年間で1番練習しているので。不安みたいなものはないです」。秋季キャンプ後から仲田とともに流してきた汗が、確かな自信につながろうとしている。

 取材に訪れた日は気温が0度に近く、雪も降っていた。それでも誰1人として練習を中断することはなかった。自主トレをともにする正木は昨季、苦しみながらも飛躍を遂げた。そんな先輩に続けるように――。白い息を吐きながらボールに集中する21歳の目に、曇りはなかった。

(飯田航平 / Kohei Iida)