今オフは戦力外23人…ドラフト1位村上泰斗の両親が抱く期待と本音「不安です」

ソフトバンクのドラフト1位・村上泰斗【写真:冨田成美】
ソフトバンクのドラフト1位・村上泰斗【写真:冨田成美】

入寮前に過ごした3人の大切な時間「いよいよ始まるな」

 希望に胸を膨らませる本人を前に、両親の“本心”が垣間見えた。ソフトバンクのドラフト1位・村上泰斗投手が5日、筑後のファーム施設内にある「若鷹寮」に1番乗りで到着した。「何事も1番っていうのは自分の中では思っているので」と、力強く報道陣に語る“金の卵”を見守っていたのが、神戸から来ていた村上の両親だった。

「お父さんが前乗りして、自分とお母さんは昨日新幹線で来ました」。父の高広さんは3日に車で神戸から福岡に到着した。翌4日に村上は母と一緒に新幹線で博多に向かい、3人は合流した。

 入寮する際には20人を超える報道陣が集まり、その注目度の高さがうかがい知れた。両親は離れた場所で取材に対応する息子を見つめたが、その姿をどのような思いを抱きながら眺めていたのか――。そこにはドラフト1位の息子を持った親の偽らざる本音があった。

「正直に言って不安ですよ。去年も何人も戦力外になっていましたからね……。結果がすべての厳しい世界だとはわかっていますが、息子がそこに入るっていうのは、不安な気持ちが強いです」。寮の中へと入っていく息子の背中を見つめながら高広さんがポツリとつぶやいた。

 昨年の秋にホークスは支配下選手10人、育成選手も合わせると23人もの選手に戦力外を通告した。怪我などが理由で育成再契約となった選手もいるが、その中には、2021年ドラフト1位の風間球打投手も含まれた。プロ野球界という華々しい世界に飛び込むことになった息子に対して、抱く感情は期待だけではなかった。

ソフトバンクのドラフト1位・村上泰斗【写真:冨田成美】
ソフトバンクのドラフト1位・村上泰斗【写真:冨田成美】

 村上は高校野球を引退した後も野球部の寮に残り、後輩たちと毎日汗を流し続けた。私服は一切持ち込まず、あるのはジャージと制服だけ。2024年10月24日にドラフト1位指名を受けた後もその生活は変わらず、退寮したのが11月の末だったという。

 ようやく家に帰ってきた5人兄弟の末っ子。実家から通学するようになったが、「毎日トレーニングしたり、練習していました。祝勝会もたくさん開いていただいていました」と、慌ただしい師走を過ごしていたと高広さんは語る。まだ17歳の息子。本音を言えばもっと一緒に過ごす時間が欲しかったはずだ。

 そんな中で迎えた入寮前日。福岡を初めて訪れたという3人が向かったのが屋台だった。焼きラーメンを一緒に食べた、かけがえのない時間。「普通の会話ですかね」と多くを語らなかった村上だったが、両親は「いよいよ始まるな、という感じでした」と、内心では本人以上に緊張や不安を抱いていた。

 入寮当日は福岡の名物を食べて筑後にやってきた。「今日は天麩羅処ひらおに行ってからここに来ました。すごい行列なんですね」と、これから息子が活躍する地を少しでも知ろうとした。荷物の整理が終わり、車に乗り込んだ2人を村上は手を振り見送った。息子への期待を胸にしまい、帰る神戸への長い道のり。それを素晴らしい思い出へと息子が変えてくれるはずだ。世代に12人しかいないドラフト1位選手の心境と、その両親が抱く複雑な思いが交錯する瞬間だった。

(飯田航平 / Kohei Iida)