田上奏大が繋いだ“縁” 「千賀さん、面倒見えぐいっす」
新旧の背番号「41」が初めて巡り合った。田上奏大投手が明かすのは、ホークスの絶対的エースとして君臨したメッツの千賀滉大投手と、その右腕から背番号「41」を継承し、未来のエース候補と期待される前田悠伍投手の“出会い”。3人は今月、都内でトレーニングを行い、千賀と前田悠はそこで初めて顔を合わせた。記念すべき瞬間はどのようにして実現したのか。
田上は今年1月の自主トレに続き、来年1月も千賀に弟子入りすることが決まっている。その「前準備」として、秋ごろに参加メンバーでZOOMミーティングが行われた。自主トレで取り組みたいことや、来季の目標などをそれぞれが話し、計画を立てた。ミーティングが終わった直後、田上に千賀から電話がかかってきた。
自主トレにスムーズに入るための「予習トレーニング」を東京でやりたい??。その日程や体調の確認だった。病気のことを気遣われ、「もう制限なくできるの?」と聞かれた田上は「もう何でもできます」と即答。すると、千賀から突然こんなことを尋ねられた。「前田(悠伍)君ってどうするの?」。
唐突に出てきた後輩の名前に思わず驚いたが、すぐに「あ、41番やからか」と理解した。「(カブスの)今永(昇太)さんのところに行くと聞いています」と伝えると、千賀は「分からないことがあったら、いつでも聞いてって言っといて」と、面識のない古巣の後輩へのメッセージを田上に託した。
「自分も(今年の)1月に千賀さんのところに行って、すごくいい経験したし、めちゃくちゃ勉強になったので。これはすぐ悠伍に伝えないといけないと思いました」。先輩からの言葉を伝えた田上は、前田悠の行動力に驚かされた。「すぐに『千賀さんの連絡先ください』って言ってきて。悠伍もすごいですよね」。
“メジャーリーガー”からの突然の伝言に恐縮してもおかしくないはずだが、ルーキー左腕の行動は早かった。「嬉しいです。ちょっと話を聞いてみたいです」と田上に頼み、すぐさま千賀と連絡を取った。これが新旧「41」の初コンタクトだった。その後に3人のグループLINEが作られ、日程などのやり取りを経て、先述のトレーニングに至った。田上は「千賀さん、面倒見えぐいっす」と先輩の気遣いに感激しきりだった。
田上にとっても前田悠と共にトレーニングするのは初めてだった。「悠伍もやっぱり器用やし、すごいなと思いますね。僕が今年1月の自主トレでめちゃくちゃ頑張ってやっていたことを、悠伍は結構サッとできたんですよ。『うわー』って思って(笑)。でも、千賀さんからは『奏大の方が上手だよ』みたいなフォローはされましたけど……」と苦笑いを浮かべた。
高卒1年目のドラ1左腕と、高卒4年目で来季から再び育成契約となる田上。置かれた立場は違うが、先輩として負けてはいられない。「悠伍はドラ1ですし、取り組み方とかは『さすが大阪桐蔭から来たな』って感じですね。エースだし、真面目だし。普通に話していたら可愛いなと思うんですけど、野球のことはしっかりと考えている」と後輩の凄みを感じている。
それでも選手としての力量になると話は別だ。「でも、めっちゃ負けているかって言われたら、別に負けているとは思わないです。悠伍は変化球とかすごいので、そのへんはアイツの方が上やなと思うんですけど、今は。でも真っすぐの強さとかだったら、絶対に俺の方が強いし、自分の武器ってあると思うので」と負けん気を覗かせた。
「普通に高卒1年目から1軍で投げていて、そこはやっぱりすごい。自分は2年目だったので。あ、でも自分は初登板は抑えているので(笑)。そこはまだ、ちょっと言えますね」とニヤリ。ライバルではあるが、後輩の良さを素直に認めつつ、千賀との出会いもアシストした田上。千賀には「同じチームだし、(前田悠に)負けんなよ」と声をかけられたという。
「千賀さんと会って話すたびに、その気になるというか、すごいなと思います。意識が高いし、話を聞いていて刺激を受けます。これは当たり前ではないので。より一層感謝して、絶対ものにしてやるっていう気持ちで。そこは遠慮せずにいきたい」と田上は気を引き締めた。さらに、「悠伍もめっちゃ喜んでいましたよ。『マジでよかったです』って」と後輩から感謝されたことも明かした。
トレーニングを共にした3日間で、食事にも2回連れて行ってもらった。「めちゃくちゃいいものを食べさせてもらって。話を聞いていても、こうならなきゃいけないなって思う人なので。頑張ります」と決意を新たにした。ソフトバンクのエースとして戦ってきた千賀の背中を追いかける“未来のエース候補”たち。これからが非常に楽しみだ。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)