2013年育成ドラフト1位で入団し、3年目の7月に支配下登録を勝ち取った。2017年からは1軍で先発、中継ぎ、第2先発など様々な役割でチームに貢献してきた。2020年には最多勝、最高勝率のタイトルも獲得。2021年には開幕投手を任され、2023年にはノーヒットノーランを達成した。“育成出身初”の功績も数多く残してきた32歳。ホークスで過ごした11年を、石川らしい言葉で振り返った。
「あまり過去に固執しないタイプなので。(11年間で)これというハイライトはないですね」。クールに語る石川だが、チームメートはやはり“特別な存在”だった。「いい仲間ですね。2017年から1軍生活が始まって、そこからともに戦ってきたメンバーには思い入れがすごくあるっていうか……。でも、近年どんどんみんながいなくなって、寂しく思うところもあったのが正直なところ。そこが一番大きいですかね」。戦友たちの顔を思い浮かべた。
そんな中でも、特に思い出深い仲間がいた。「同学年もいっぱいいたし、その時の戦いはすごく印象に残っています。みんなで頑張って優勝、日本一にもなったし。そういうのが一番色濃く出た時期だったので。正直、(今宮)健太とか森(唯斗)とか加治屋(蓮)とか、同学年のメンバーと厳しく楽しく戦った思い出っていうのが懐かしいですね」。石川の中に深く刻まれた時間だった。
これまで数々の別れを経験してきたが、今回は自身がチームを去ることになった。「健太には『同級生、またいなくなるわ』とか言われましたけど、野球界っていなくなるが当たり前じゃないですか、いろんな形で。だから寂しい思いはあるけど、そういう人生。お互いの人生があるじゃないですか」と、プロ野球選手としての生き方を受け止める。一方で、「健太みたいにずっとチームに居続けられるすごさもありますからね。居たくても居られない人だっているんだから」。激しい競争社会の中、ホークスで自分の城を築き続ける仲間に敬意を示した。
「結局みんな、いずれ(現役を)辞めるわけじゃないですか。今はその佳境、終盤なわけですよね。だから、またゆっくり会えたらいいなって。プロ野球っていう怒涛の“激流”の中で、同じ流れに乗るタイミングがあるかもしれないですけど、違う方に流れていっても、最後に行き着くところは“海”じゃないですか。だから、今は激流に流されず、死なないように。ただひたすらもがいて戦うっていうところじゃないですかね」。
同じチームで戦っていても、そして別れても、激流を越えた先できっとまた会える——。それぞれの道を戦い抜いた末に、再び笑いあえる未来を思い描いているようだった。
忘れられない盟友はほかにもいる。「千賀(滉大)もホークスでずっと戦ってきて、今はチームを離れて戦っている。それが自分の刺激になっていますし、場所は違えどホークスで戦ってきた仲間なので。自分もそういう存在になれるように、新しいチームで頑張っていきたい」と石川は強くうなずいた。
千賀同様、“育成の星”として這い上がってきた石川だが、「育成時代は、野球人生の中では10分の2くらいなので」とことさら振り返らなかった。入団してしまえば、支配下も育成も関係ない——。そう思って自分自身と向き合ってきた証だろう。「ただ、筑後の1年目も(かつてファーム施設があった)西戸崎も経験していますし。そういう懐かしさや寂しさっていうのはあります。ホークスって移りゆくスピード、進化していくスピードがより早いと思うので。当時とは全然違った環境になっているし、人も違う」。在籍11年で移ろった季節を思い返した。
スッキリとした表情で旅立つ右腕だが、胸の中には常に感謝がある。「ファンの皆さんが悲しんでくれたり、色々とメッセージをくれたりっていうところは、すごく思うところはあります。そこに関しては、自分としては感謝しかないので。またグラウンドで元気な姿を見せられれば」。最後の取材中、ファンの姿が目に入ると「ファンが待ってくれているので」と自ら駆け寄り、サインや写真撮影に対応していた。最後まで、ファンを大切にする石川らしい姿だった。応援してくれた人のためにも、新天地での活躍を誓った右腕。離れる大切な仲間たちとも、またいつか——。