立ち直るのに「2、3日かかりました」 失意の新人右腕を励ました板東湧梧の“背中”

ソフトバンク・村田賢一(左)と板東湧梧【写真:小池義弘、小林靖】
ソフトバンク・村田賢一(左)と板東湧梧【写真:小池義弘、小林靖】

故障に不調…苦しんだ1年目も「好きなことで悩めるのは面白かった」

 苦しむ日々の中で、先輩右腕の背中が“もがく勇気”をくれた。「やっぱり好きなことで悩めるのは、面白かったです」。すっきりとした表情でルーキーイヤーを振り返ったのは、村田賢一投手だった。

“精密機器”と呼ばれるなど、抜群の制球力を武器に明大からドラフト4位で入団した右腕。今季は2軍で開幕投手を任されると、滑り込みで開幕1軍入りするなど、順調なスタートを切った。4月13日の西武戦では中継ぎでプロ初登板。1回2失点と結果こそ出なかったが、早くも1軍の舞台を経験できたことは大きなプラスだった。2軍降格後も黙々と練習を重ね、試合でも結果を残した。

 春先はファームで安定した成績を収めたが、本人の受け止めは冷静だった。「手応えは正直あまりないです。なんで抑えられていたんだろう、みたいな分析を毎回していた覚えはあって。やっぱり、まだ僕がどういう投手か知られていなかったことが大きかったと思います」。ルーキーゆえにデータがないこと、初対戦の打者が多かったことが好投できた要因ではないかと謙虚に受け止めた。

 順調に進みだしたルーキーイヤーが暗転したのは、開幕からしばらくたった後だった。腰を痛めて6月途中にリハビリ組へ移ると、8月下旬に復帰した後も打ちこまれる日々が続いた。「リハビリ自体はそんなに苦しくなかったですけど、復帰後も成績が振るわなかったので。そこはかなりしんどかったです」。下を向きそうになった時、村田の目に入ったのは、板東湧梧投手の姿だった。

「板東さんは今年あまり調子がよくない中でも、午後まで練習していたりとか、そういう姿は常に見ていたので。かなり心強かったというか、『僕も頑張ろう』『僕もちゃんともがこうかな』って思いました」

 腰痛から復帰した8月以降、村田は2軍で5試合に登板して0勝2敗、防御率8.40と打ちこまれた。「もちろん、打たれて落ち込むことはありました。練習してもあまりうまくいかず、ちょっと考え込んじゃうというか……。そんな時もありました」。日頃からポーカーフェイスを崩さない右腕も1人で悩んでいた。

ソフトバンク・村田賢一【写真:小池義弘】
ソフトバンク・村田賢一【写真:小池義弘】

 そのうえ、この時期のチームはウエスタン・リーグの優勝争いをしていた。「とりあえず自分のやることだけを考えようと思っていましたけど……。終盤に近づくにつれて、そういうところも意識せざるを得ないというか、多少は感じていたと思います」。勝利に貢献できず、もどかしさにも拍車がかかった。

 打ち込まれた際には、「やっぱり(登板後の)2日くらいはしんどいです。多少(の失点)だったら切り替えられるんですけど、結構打ちこまれた日は立ち直るのに2、3日かかりましたね」。ノックアウトされた試合の次の日は、「体幹をやって、ウエートして。自分のやるべきことをやったらすぐ帰りました」。チームメートとほとんど会話することなく、殻に閉じこもるように、いち早くその場を後にしたという。

 失意に暮れていた村田が目にしたのが、板東の頼もしい背中だった。今季1度も1軍に上がれず、ファームでも思うような成績を残せていなかった先輩右腕は、もがき続けていた。ストイックに練習する村田が見ても「むしろやりすぎなんじゃないか」と思うほど、板東は黙々と己と向き合い、鍛錬を重ねていた。「落ち込んでいる時にそういう姿を見て、僕も元気が出ました」。ルーキー右腕にとって、これ以上ない原動力となった。

 オフに入るとゴルフを共にする機会もあったが、村田からはあえて野球の話をしないようにしていた。以前に「ゴルフに行くことでリフレッシュできる」と語っていた先輩右腕の、貴重な気分転換を邪魔するわけにはいかないと遠慮したからだった。適度に肩の力を抜くことも大切だというのも、板東の姿から学んだ。

 収穫も苦悩もあった1年目。村田はすべての経験をプラスに捉えていた。「ずっとうまくいくのはもちろん楽しいでしょうけど、試行錯誤していくっていうのもなかなか面白いので。そこは僕も楽しめました」。大きく頷いた右腕は、1年を通して心身共に大きくなっていた。

「やっぱり1度(シーズンを)経験すると、意識って変わると思っていて。秋季キャンプ中くらいから、練習の感じが変わってきたなと思えるくらい、いろいろと意識してきました。なので、来季はかなり自信を持っていけるのかなというのはあります。これを続けて、いい準備をして来年に臨めたら、きっといい結果が出るのかなとは思っています」。先輩右腕から学んだ「もがく勇気」。貴重な経験を2年目の来季につなげてみせる。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)