「自分の時間を割いてまで」…寄り添ってくれた先輩への感謝と尊敬
9日に行われた「第3回現役ドラフト」で、日本ハムへの移籍が決まった吉田賢吾捕手。ルーキーイヤーの昨季に1軍デビューを果たし、2年目の今季は2軍で打率.303をマークするなど十分な存在感を示していた。来季への期待も高まっていただけに、ソフトバンクとしては苦渋の放出となった。
7月に今季1軍初昇格したが、10試合の出場にとどまった。それでも約1か月間の1軍生活は大きな財産となっていた。主力の背中を見て、大きく変わった意識。「課題がより明確になったし、逆に言えば『ここはやれるな』『ここは自分のスタイルを崩さなくてもいいんだな』って自信になった部分もありました」。足りないものも手ごたえも得た期間だった。
「試合に出るためには、やっぱり守れなかったら厳しいなと。もちろん打つ方も向上しなきゃいけないんですけど、それよりも守ることができればより近付くのではないかと感じました」。捕手登録ながら、今季はファームでも一塁を守ることが多かった23歳。最も印象的だったのは、球界を代表する守備職人とのかけがえのないやり取りだった。
「プレーヤーとしてもそうですけど、人としても素晴らしい方です」。吉田が目を輝かせた相手は、今宮健太内野手だった。「今宮さんが自分の守備を気にかけてくださって。時間を割いてまで一緒にノックを受けてもらったり、『こうなってるよ』って指摘してくれたりして……」。
結果を残せずに登録抹消された際にも今宮から声をかけられた。「ファームに落ちる時も、『次、1軍に来る時は楽しみにしてるよ』って言ってくれたんです。『打つ方はもう、お前がある程度できるのはみんな分かっているから。そこじゃなくて、次に上がってきた時は、守備で変わった姿を楽しみにしているよ』って。すごくありがたかったです」。優しい先輩の言動に感激しきりだった。
守備が最大の課題だと認識したからこそ、周囲をじっくりと“分析”した。「(中村)晃さんはゴールデン・グラブ賞を取るくらい上手いし、そういう印象がみんなにも植え付けられていると思う。逆に言えば、自分は守備に関してはいいイメージがないと思う。それを覆すのは簡単なことじゃないし、1年通して守って初めて『できるな』って印象になると思う。すぐには厳しいと思いますけど、コツコツと……」。
自らがどう見られているか――。俯瞰できる能力こそ、吉田の強みだ。「山川(穂高)さんや晃さんは今まで積み上げてきた部分があるので。ちょっと軽く見えてしまうようなプレーでも、ハンドリングでササっと(捕球する)。気持ちや技術の部分で余裕があるから、ああいうプレーができるんだなと。(時間をかけて)作り上げてきた立ち位置だし、僕が今すぐそこに到達できないので。しっかり1個ずつアウトを取っていきたい」。守備力も周囲の信頼も長い時間をかけて積み上げるもの。だからこそ、今宮が真っすぐに自分を見てくれたことがうれしかった。
打撃についても今宮から学ぶことは多かった。「体格とかは全然違いますけど、勝手に似ているタイプだと思っています。自分(の特徴)はホームランや長打とか言われがちですけど、全然そういうつもりはなくて。長打を狙ったことないし、場面に応じたバッティングを持ち味にしているので」。感じたのはチームバッティングに徹する“かっこよさ”だった。
「健太さんはランナー二塁だったら、あからさまに初球から右方向に打ちにいって、それが全員に伝わるというか。ヒットじゃなくても右方向、あわよくばライト前だったらオッケーみたいな気持ちが姿勢で伝わる。それくらい極端じゃないといけないんだと改めて思いました」
プロでの2年間で様々な経験をしたが、その中でも真っ先に脳裏に浮かんだのが今宮と過ごした貴重な時間だった。来季からは別のチームで戦い、物理的にも距離は遠くなる。それでも、成長した姿を1軍の舞台で見てもらえるように……。吉田はこれからも今宮の言葉を胸に刻んで戦っていくだろう。優しい“兄貴分”はきっと、これからも陰ながら気にかけてくれるはずだ。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)