プロ入り初の未登板も「最も濃い1年」 武田翔太の決意と後悔…向き合って拓いた新境地

ソフトバンク・武田翔太【写真:冨田成美】
ソフトバンク・武田翔太【写真:冨田成美】

麻酔が覚めた瞬間に抱いた思い「気合を入れてやらないと」

 8か月が経ち、スッキリとした表情で日々を過ごす。「だいぶ体は仕上がってますよ、肘以外は」と冗談っぽく笑う。ソフトバンクの武田翔太投手は今年4月に「右肘内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)および鏡視下肘関節形成術」を受け、リハビリに励んでいる。

 復帰までに1年から1年半を要する大きな手術だが、プロ13年目で覚悟のメスを入れた。「気持ちは全然(大丈夫)。もうフィジカルだと思っているので」。とにかく前を向き、今できること、すべきことに焦点を当て、充実した時間を過ごしていた。

 必要だと思うことはとことん勉強し、追求するのが“武田流”。プロ生活を思い返しながら、「今年に関してはマジで入団してから一番濃かったかな……」と言った。これまでにリーグ優勝や日本一、日本代表としても脚光を数多く浴びてきた中で、プロ13年目で初めて公式戦のマウンドにすら上がれなかったシーズンを「一番濃かった」と表現した。

「いい意味です、もちろん。試合で投げていないのは悪いですけどね。でも、これからの経験としてはすごく生きてきそうで。1年間、試合で投げずに体のことだけを考えられることって、普通だったらないですからね。だから、手術する前から『今年はそういう1年にしたい』と思っていて。自分磨きの年。その中でストイックにやれています」

 入団してからの12年間、毎年1軍で勝利を挙げてきたというのは改めて偉大なことだ。一方で、腕を振り続けたことで“失っていたもの”もあったという。「自分と向き合う時間がやっぱり圧倒的に少なすぎたなと思う」。走り続けてきた足を一度止めたことで感じることも多かったようだ。

「しっかり自分と向き合うというか。そういう時間ができたから、それはいい勉強というか、なかなかない経験だなって。振り返ることもそうだし、『あの時、何でこれをしなかったんだろう』と後悔することもある。むしろここからは尚更、気合いを入れてやらなきゃいけないよねっていうのは、手術して麻酔が覚めた瞬間から本当に思って……」

  武田が口にした“後悔”――。内省する時間があったからこそ、「もっとストイックにできたんじゃないか」と感じるところがあった。「体作りに関して今までも勉強はしてきたけど、『浅はかだったな』みたいな。今は野球ができない分、本とかを読み漁って勉強したりして」と、深く学ぶきっかけにもなった。「私生活の面でも、もっと徹底できたんじゃないかなとか。ここ1年の自分を見ると、『これをもっとこうしておけば良かった』って。まあ、過ぎたことはしゃあないんですけど……。ここからもう1段階上がっていければいいなと思います」。

 過去を悔いているばかりではない。「この状況からどうやって取り戻していくかというよりは、新しく吸収していく。そこだけを考えてやってきたので」。“新たな武田翔太”を築き上げていく上で、全てを貴重な経験にしてみせるつもりだ。

「一番濃かった」という1年で、右腕が決意したことがある。「僕が言えることは、和田(毅投手)さんみたいに『やりきった』って言えるように……」。今季限りで現役を引退したレジェンドの名前を挙げた。今年はリハビリ組で同じ時間を過ごしたこともあった。自身と同じくトミー・ジョン手術を経て復活し、プロの世界で長く腕を振ってきた先輩左腕の偉大さを改めて感じていた。「あれだけストイックにやっていたら……って」。自責の念も抱くほどに、和田の存在は偉大だった。

 武田は現在、精力的にトレーニングをこなしている。「自分がやりたいことは、結局フィジカルが強くないとできないなっていう結論に至ったので。筋肉でカバーしていくしかない」と、かなり追い込んでいる印象だ。「しっかりやらないと復帰できない感じがするので。やっぱり手術した身だからこそ、ちょっとハードめにしておかないと。トレーニング1つにしても、ちょっと勉強したりして」とストイックに取り組んでいる。

 術後8か月で身体は既に大きな変化が起きている。「手術した後だから仕方ないですけど、体脂肪もちょっと増えていたので、そこを7%減らして、体重も6キロ弱落としたんですけど、筋肉量は上げて。体脂肪率はここからもう6%くらい落としたいイメージですね」とうなずく。

「とにかく後悔のないようにしたい」。新たな自分で挑む14年目のシーズンへ。武田は前を向いて進化し続けている。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)