11月4日に横浜の地で日本シリーズの終戦を迎えてからおよそ12時間後、尾形崇斗投手の姿はみずほPayPayドームにあった。空路で福岡に戻り、スーツ姿のまま本拠地へ直行。みっちりとウエイトトレーニングを行った。「僕にとっては今日が来年に向けてのスタートなので」。そう語る表情は引き締まっていた。
7年目の今季は飛躍のきっかけとなる1年だった。12試合に登板して2勝3ホールド、防御率2.31をマーク。9月以降は登板9試合で防御率0.00でシーズンを終えた。勢いそのまま日本シリーズに乗り込み、チームトップの4試合に登板したが、計3イニングを4失点で防御率12.00。初の大舞台で実力を発揮することはできなかった。
手ごたえも悔しさも味わった右腕。宮崎秋季キャンプ中には倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)と面談し、来季も中継ぎで勝負することを決めた。師匠と敬うロベルト・オスナ投手に「超えます」と力強く挑戦状をたたきつけた25歳。その覚悟はこのオフからすでに滲んでいる。
「ファンフェスティバルとか球団納会ゴルフはスタートが早いので、朝4時とか5時に起きてトレーニングして。イベント中が体を休める時間みたいな感じですね」
夜明け前に自宅を出発してドームに到着すると、インターフォンで夜間警備員に連絡して鍵を受け取るという。「最近は『また尾形か』って感じの反応ですね。僕もすみません……みたいな」と苦笑する右腕。シーズンが終わっても5勤1休のペースは崩さない。「練習をやらない時間が空いちゃうと、今の自分がどういうコンデイションなのか分からなくなる。自分の中での基準はなくしたくないので」。ストイックぶりはチーム随一だ。
小久保監督は来季に向け、中継ぎ陣に“宿題”を課した。守護神のオスナをはじめ、ダーウィンゾン・ヘルナンデス投手や松本裕樹投手ら「実績組」のリリーフ陣に対し、開幕1軍は「ほぼ当確」と明言。その他のメンバーについては「回跨ぎができることを目指してほしい」と開幕メンバー入りへの条件を示した。
指揮官の意向は尾形にも当然伝わっていた。「まさにそこですね。自分の目指しているところなので。メジャーのクローザーでも8回から火消しで出て、そのまま9回も行くっていうのは当たり前のようにやっている。そこはマストだと思います」と拳を握った。
6年目の昨季は回跨ぎで失点を重ねるケースも目立った。今年の日本シリーズ第4戦でも、1点ビハインドの2死一塁でマウンドに上がり、オースティンを空振り三振に仕留めたものの、続く7回に一挙4失点。悔しい思いは忘れるはずもないが、それでも気持ちは前向きだ。
「気持ちの部分で難しさはありますけど、25歳で『できません』じゃダメ。もうそこはクリアしておかないといけないステップだと思うので。スキルの面もそうだけど、マインドセットの部分でしっかり準備していきたい」。さらなる飛躍に向け、休んでいる暇はない。
「オスナが日本にいる間に僕が守護神の座を奪いたい。それが来年ならよりいいですよね。来年春のキャンプで再会した時に、ライバルとして向き合えれば最高です」。高い壁を越えるべく、進化を止めるつもりはない。