耳を疑った戦力外「フェイクニュースかと」 愛された“練習の虫”…後輩が憧れた仲田慶介

ソフトバンク・重松凱人と仲田慶介【写真:飯田航平、冨田成美】
ソフトバンク・重松凱人と仲田慶介【写真:飯田航平、冨田成美】

重松がスカウトに言われた「仲田を見習って頑張ってほしい」

“兄貴分”の戦力外通告に耳を疑った。ソフトバンクは日本一を逃した翌日の4日、7人の選手に戦力外を通告した。その内の1人、仲田慶介内野手は今季開幕前に支配下登録され、開幕1軍の切符を掴んだ。1軍では出場機会に恵まれなかったが、2軍では9月に打率.403をマークし、月間MVPを受賞。地元・福岡で生まれ育ち、大好きだった球団で夢を掴んだ“努力の人”。通告を受けた直後は、悔しさ、寂しさ、様々な感情が思わず涙となってあふれた。

 ショックを受けたのは仲田だけではなかった。「本人が一番驚いていると思うんですけど、自分たちもショックでした。こうやって2軍で活躍してる人でも切られるんだって。自身の立場に置き換えると、すごく危機感を感じました。もし支配下を勝ち取ったとしても、1軍で結果をすぐ残さないと……。支配下になることだけを目標にしてしまったら、その先はないんだなっていうのを感じました」。こう語ったのは育成2年目の重松凱人外野手だった。

 重松は仲田のことを「兄やん」と慕い、その背中を追い掛けてきた。第1報はネットニュースで知った。

「フェイクニュースかと思いました。本当に『えっ?』って」

 戦力外通告前日の3日は、筑後で行われている秋季キャンプで一緒に汗を流し、ロッカーでも普段通りの他愛もない会話を交わしていた。「兄やんが『俺、掃除せないかんな』とか言って、ロッカーの片付けをしていたんです。物が多かったので『汚い~』とか言いながら眺めていたんですよ」。仲田のもとに球団の編成担当から電話がかかってきたのは、この後のこと。皮肉にも“事前準備”のような形になってしまった。

 仲田の1学年下にあたる重松はホークスから指名を受けると、仮契約の席で福山龍太郎アマスカウトチーフからこんなことを言われた。「仲田っていうやつがいる。お前が一番ついていかないといけない先輩だぞ。ああいうヤツを見習って頑張ってほしい」。入寮すると、すぐに挨拶に行った。

「『福山さんから仲田さんについていけって言われました』って話して、一緒に練習させてもらったり、どういうふうに生活しているのか近くで見させてもらいました。山下恭吾(内野手)が同じ大濠高(福岡大大濠)の出身だったので、自分と山下と兄やんで一緒に風呂に入ったり、色々な話を聞いたりして。今年も、自分の練習が終わった後に一緒に練習させてもらったり……。一番近い存在で、一番お手本になってくれた存在です」

 スカウトに勧められた通りに“弟子入り”した先輩は、心から尊敬できる存在だった。「ほかの選手の憧れって言ったら、ギータ(柳田悠岐)さんとか近藤(健介)さんとかだと思うんですけど、自分の中では仲田さんが一番輝いている存在です。天才ですよ、あの人は本当に。愛されキャラです。みんな『寂しい』って言いますよ」。誰よりも野球が好きで、誰よりも努力していた。だからこそ、重松をはじめ後輩たちが慕う存在だった。

 目の当たりにした厳しい現実。「自分たちはこれをチャンスだと思わないといけない立場。寂しい思いもありますし、一緒に野球をやりたかったっていう気持ちもあるんですけど、そこをチャンスだと思わないといけないんで……」。そう語る重松の表情は、やはりどこか寂しげだった。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)