レジェンドからの「ラストメッセージ」が若鷹の背中を力強く押した。今季限りで現役を引退した和田毅投手からかけられた温かすぎる一言——。岩井俊介投手と前田純投手が「あの夜」を振り返った。
和田がチームメートに引退を伝えたのは公式発表前日の4日、今季1軍でプレーしたほとんどの選手が集まった祝勝会の場だった。大部屋で一堂に会したわけではなく、個室にそれぞれ何人かの選手が集まり、互いに1年間の労をねぎらった。岩井が長谷川威展投手、大津亮介投手、海野隆司捕手とともに焼肉を堪能していると、突然和田が部屋に入ってきた。そして、ベテラン左腕はさらりと口にした。「今年でもう辞めるわ」——。
「時が止まりましたね」。誰もが想像していなかった言葉を耳にした衝撃を岩井が明かした。「とりあえず乾杯!」。柔らかな表情のまま後輩たちとグラスを合わせた和田は、1人ずつに言葉を贈った。
「お前、めげんなよ」
直近で行われた日本シリーズで3試合に登板したものの、計2イニングで2失点と悔しすぎる結果に終わっていた岩井を励ます言葉だった。「マジでうれしかったです」。1年目のシーズンを終えた右腕にとって、これ以上のエールはなかった。
和田の存在を「スーパースターじゃないですか」と語る岩井。「(ゲームの)プロスピ(プロ野球スピリッツ)でめちゃくちゃ使ってました」と、以前から尊敬の対象だった。それはホークス入団後も変わらなかった。「めちゃくちゃ練習されるなって。本当にすげーって」。ともにプロ野球選手としてプレーしたのは1年間だけだったが、一心不乱に走り込む左腕の姿は脳裏に焼き付いている。
「ここからだから、頑張れよ」
そう声をかけられたのは、2022年に育成入団した前田純だった。今年1月の自主トレで初めて「和田塾」に入ると、7月末に支配下選手登録を勝ち取った。レギュラーシーズンでは唯一の登板となった9月29日の日本ハム戦では6回無失点と好投。降板後に訪れたピンチの火を消したのが和田だった。
その後に和田は、前田純が生まれた2000年に作られたワインに自らのサインを入れてプレゼント。ベテラン左腕の人間性があふれた行動だった。
「驚きました。『えっ……』って」。祝勝会を終えて自宅に戻っても、和田の引退が頭から離れなかった。「同じ左投手ですし、憧れの存在だったので」。まだまだ教わりたかった。そしてもっと恩返しをしたかった。「もちろん、さみしいです」。そう口にした後、前田純は意を決したように続けた。「でも、チャンスだとも思っています」。ベテラン左腕の思いは伝わっていた。
「自分が1軍にいる意味は、もちろん戦力としてもあるんだろうけど、それだけじゃないことも分かっている。いろんなことを伝えられたらと思っています」。今季終盤に1軍再昇格した際、和田はこう口にしていた。プロでの22年間、真剣勝負を貫いた左腕が残したメッセージ。後輩たちの心にしっかりと刻まれていた。