絶対に抑えたかった。強く、そう思っていた。「僕、悠伍の勝ちを消しているんですよ……」。悔しそうに古川が思い返したのは、6月6日のウエスタン・リーグ中日戦のことだ。この試合はみずほPayPayドームで行われ、前田悠が“本拠地初登板初先発”を果たした。ドラ1ルーキーが本拠地でベールを脱ぐとあって、ファンやメディアからも注目を集めた一戦だった。
前田悠は期待通りの投球で、6回3安打無失点。球数はわずか77球と余力を残していたものの、ステップを1歩ずつ踏んでいる段階でもあり、公式戦初勝利の権利を持ってマウンドを降りた。あとを受けて7回に2番手で登板した古川は、回を跨いだ8回に2つの四死球と2本の安打などで逆転を許した。前田悠の初勝利は幻となり、チームも敗れた。注目の一戦だっただけに、ショッキングな敗戦となった。
「そういった思いも自分の中にあって、ここで絶対抑えてやろうっていう気持ちでした。中継ぎはやっぱり先発の気持ちも受け継ぎながら投げるんで。僕の性格的には特にそういうタイプなんで、よかったです。リベンジに成功したんで良かった」。29歳になった古川はこう語ると、安堵の笑みを浮かべた。
前田悠は高卒ルーキーながら、ウエスタン・リーグで4勝を挙げて防御率1.94。10月1日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)で、ついに1軍デビューを果たした。10歳年上の古川も、「『すげえな、すげえな』っていう話をみんなでずっとしています。ブルペンで『アイツなんでこんな抑えれるん?』『すごすぎやろ』みたいな。高卒1年目であれを……。いや、ほんと大したもんやなっていう感じですね」と目を細めるほど。“お兄ちゃん達”が絶賛するルーキーに、自らも刺激も受けている。
古川は今季、自主トレや春季キャンプでの飛ばしすぎが祟り、苦しんだ。結果も伴わず、3軍戦で登板することもあった。だが、8月以降は2軍戦10試合(計11イニング)に登板し、1点も取られなかった。これまではあまりなかった僅差の展開やセーブシチュエーションでもマウンドに上がり、2軍の優勝争いで欠かせないピースとなった。ウエスタン・リーグ2連覇が決まった9月27日の広島戦(由宇)、勝ちに行った松山秀明2軍監督が“胴上げ投手”を託したのも古川だった。
「めっちゃ嬉しいですね。嬉しいですし、そういった場面で投げさせて頂けることにやっぱり感謝しないといけないなって思います」と、口にしていた古川。2軍とはいえど、終盤は優勝を意識し、勝ちに行った“松山采配”の中でも確実に信頼度を上げていた。今季中の支配下登録はかなわなかった。年齢的にも、立場的にも決して安泰では無いことも重々分かっている。それでも、右腕は野球が大好きなのだ。
「今年はマジでいろいろありましたね。別の人の体を操ってるような感じでした。こんなふうになったのは野球人生の中でもないですね」。予想だにしない、山あり谷ありの1年になった。それでも、幸せを感じていられるのは、大好きな野球に全力で取り組めているから。どんな時も変わらない。これまでもこれからも、古川は毎日を全力で過ごしていく。