9月は70打数30安打の打率.428…「誰も予想できないくらいの選手になる」
「僕、ファーム選手権に出られないんですよ」。そう言って肩を落としたのは仲田慶介内野手だった。ホークス2軍は2年連続でウエスタン・リーグを制し、5日に宮崎で行われるファーム日本選手権への出場が決定。選手たちも2年連続の“日本一”に向け、筑後のファーム施設で精力的に汗を流している。
熱のこもった練習風景に溶け込んでいる仲田だが、つい“本音”がこぼれた。「最後は結構、(2軍の優勝に)貢献したと思うんですけど……。悲しいですよね」。2連覇を決めた9月27日の広島戦(由宇)でも、9回に2点適時打を放つなどの活躍を見せた25歳。“大舞台”への道が閉ざされた理由は、あまり知られていない「規則」だった。
「ファーム公式戦における規定打席×0.3」。これをクリアしていることが、ファーム日本選手権の“出場資格”となる。今季、ホークス2軍の試合数における規定打席は321打席。仲田の打席数は88で、わずか「8」足りなかった形だ。ファームでは驚異の打率.403をマーク。特に9月は70打数30安打の打率.428と絶好調ぶりを見せつけていただけに、残念がるのも無理はなかった。
仲田としては今季中の1軍再昇格を目標に、最後まで諦めず結果を求め続けた。しかし、リーグ優勝が決まった後もチャンスは得られなかった。「厳しいですね」。悔しい気持ちを押し殺しつつ、与えられた場所で結果を残すことに集中した。2軍の優勝に大きく貢献し、ファーム日本選手権でもチームを2連覇に導こうと意気込んでいた。
そんな最中で“発覚”した出場資格なしの事実。「仲田がおらんのは痛すぎる」というチームメートからの声が、存在の大きさを表していた。福岡大時代の同期でもあるDeNA・井上絢登外野手との対戦も楽しみにしていただけに、ショックは大きかった。
もちろん、プロ野球選手としてファーム日本選手権への出場が“ゴール”というわけではない。松山秀明2軍監督が「選手にとってはいいこと」と語るように、2軍での打席数が少ないということは、すなわち1軍に長くいた証でもある。怪我での離脱期間が約1か月あったとはいえ、開幕から7月11日に登録抹消されるまで、シーズンの半分は1軍でのプレーだった。出場機会こそ多くはなかったが、仲田としては新たな経験ばかりのシーズンだったといえる。
とはいえ、根っからの“野球小僧”はグラウンドで躍動したいとの思いにあふれている。様々な悔しさを晴らすかのように打ちまくった9月。普段は謙虚な仲田が「月間MVPもいけるかな」と言うほど、手応えを感じていた。怪我から復帰後、すぐに結果が出続けている要因について「明石コーチの一言で、きっかけをもらえて。今までにない新たな引き出しができました」と自己分析。明石健志2軍打撃コーチからの助言に感謝しきりだった。
仲田が明かした“きっかけ”は「簡単に言えば、相手ピッチャーのボールを利用する」というものだった。「トップからインパクトまで、そこしか考えないっていうか。もうリラックスして。そこで力を入れるからファウルになるので。ピッチャーの球を利用するみたいなイメージでいったら、ミスショットがもう格段に減って。そこだけです、シンプルですけど」。これまではしっかりと振りにいくイメージだったが、リラックスしてバットの芯に当てることだけを心がけると、面白いように快音が続いた。
「上がりたかったです」。この状態なら1軍でも結果を出す自信はあった。その願いはここまで実現していないが、「怪我だけには気を付けて、自分の実力を上げ続けていけば、いつかは誰も予想できないくらいの選手になれると思う」と前を向く。「それくらい化ける! それを目指したいです。(1軍に)上がる、上がれないはありますし、悔しさはあったんですけど。自分の実力を上げ続けていけば……。ジェシー(日本ハム・水谷瞬外野手)とか、まさにいい例ですよね。ずっと自分の能力を上げ続けていたから」。感情に左右されることなく、自分自身にベクトルを向けて圧倒的な成長を志している。
ファーム日本一を目指す舞台に上がることは叶わなかったが、この先のポストシーズン出場も最後まで諦めるつもりはない。「もちろん、そこの準備はやっています。コツコツやるだけかな。学生の頃の気持ちを思い出しました。最初から上手くいってないんで、ずっと。プロ目指してずっとやってきた、なんかその時の気持ちを思い出しました」と拳を握った。
2021年の育成ドラフト14巡目、128人中128番目に指名された仲田。“下剋上”という言葉が似合う男は「簡単にいったら、自分じゃないですね」と笑ってみせた。数々の困難を乗り越えてきた25歳。最後の最後まで諦めるつもりはない。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)