4年ぶりに悲願のリーグ優勝を果たしたホークス。鷹フルでは、主力選手に限らず若手からベテランまで、1人1人にスポットを当ててシーズンを振り返っていきます。今回は、緒方理貢外野手。昨オフの契約更改交渉で球団側に伝えたのは「他球団への移籍」の意思でした。自分の思いをハッキリと口にして、掴んだ“夢”。小久保裕紀監督、柳田悠岐外野手との関係性にも迫ります。
川村友斗外野手、仲田慶介内野手とともに春季キャンプからA組に選ばれた。3月19日に支配下登録を勝ち取ると、今季は84試合に出場して打率.173、0本塁打、4打点、4盗塁。1度も2軍に降格することなく、貴重な存在としてチームに貢献した。「大きなミスがなかったところじゃないですか。自分は先発で行くところじゃないので、このプレーをしたから残れたとかじゃない。大事なところで行くので、監督をはじめ首脳陣が求めていることができているから残れていると思います」。派手さではなく、堅実さで自分だけの居場所を作っていった。
2021年育成ドラフト5位で駒大から入団した。2022年はウエスタン・リーグで盗塁王を獲得したものの、ホークスの厚い選手層にも阻まれてチャンスを掴めずにいた。育成選手は、3年目のシーズンを終えると1度、自由契約になる。昨オフ、球団に伝えたのは「移籍」の意思だった。
「3年で1回契約が切れる時に他球団と交渉ができるんですけど、早いうちにホークスからは『来年も』(ホークスでやってほしい)という話はいただいていました。それなら、チャンスはずっとあると思っていた。とにかく体を戻そうという気持ちで去年(2022年)はやっていました。来年(2024年)勝負するために。枠が少なかったので。体を仕上げて来年勝負できるようにとは思っていましたし、それは早いうちに声をかけてもらったからです」
ホークスの育成選手は、3年目を終えれば球団と面談があるという。「『どう考えているのか』とか、その時にも言われました。『もちろん他球団も考えています』っていうのは言いました」と、移籍の意思はキッパリと伝えた。ホークスから退団することを意味するが、自分だけの野球人生。「口にしないと、自分にマネジャーがついているわけでもないし、探すってなったら自分で探すしかない。そこは伝えないといけないと思いました」と本心を明かした。
当然、不安はあった。「そうなると1回はどこのチームでもなくなるので。他のチームから声が掛からなかったら終わりですし」。だからこそ面談よりも前から、ホークスが「来年も」と声をかけてくれていたことが嬉しかった。年が明けて春季キャンプからアピールが始まったが、「今年ほど、立ち位置的に(支配下に)行けるという自信がなかった。枠というのは考えていなかったです。(支配下に)行く人が行くんだろうなと思っていましたし、そこに自分が入っているとは思っていなかったです」。今だから明かせる思いだ。
3月19日に支配下登録された。当時の気持ちを「覚えています。でも不思議というか、実感はなかったです」と振り返る。「背番号が変わるけど自分が見るわけでもないし、ただ今までとやることが違うという不思議な感じ。まだ実績とか、(シーズンが)始まってもいなかったので、そんな気持ちが強かったです」と、フワフワした感覚だった。電話で報告すると、母は涙を流して喜んでくれた。緒方にとっても忘れられない日だ。
会見が終わると、川村、仲田とともに監督室に行った。「『おめでとう。これからだぞ』って言葉をかけてもらいました」。自分という存在を見出し、1軍に呼び、2桁背番号にしてくれた恩人の存在には「今の自分があるのは小久保さんのおかげ。芯が通っている人だと思います。ブレないので。そこは、すごいなと思いますし。2軍の時から変わっていないので、やりやすいです」と、どこまでも感謝は尽きない。
6月には小久保監督に誘われて、仲田と一緒に食事した。支配下登録のお祝い。サプライズで登場したのが、柳田だった。「『支配下になったからご飯に行くぞ』ってなりました。川村はその時は2軍にいたので、僕と仲田でした。ギーさんも来てくれたんですけど、監督が誘ってくれたんだと思います。怪我の状況もあったから」という。寿司を食べながら「別に固い話はしていないです」と、改めて支配下になったことを実感した。尊敬する人たちからのお祝いで、ようやく実感が湧いた。
退団という選択肢を言葉にして、チームに欠かせない戦力になった。「僕も育成だったので。他だったらチャンスはあるとも思っていましたし。でも、みんな考えているんじゃないですか?」。今、3桁を背負う選手たちも、きっといろんな思いを抱えながら戦っている。ホークスで4年目を過ごすと決めた最大の理由は――。「福岡が大好きですから」。