開幕から唯一不動だった「4番・山川、5番・近藤」の打順。常に自分の後を支えてくれたのが、近藤だった。緊急事態ではあるが、正木が5番に入って感じたことを聞くと、「なんて言ってほしいですか?」と、まさかの逆質問が飛んできた。
正木は6月21日に1軍昇格し、同日のロッテ戦(北九州)に「6番・左翼」でスタメン起用されると、68試合に出場して打率.264、6本塁打、26打点の成績を残していた。近藤の離脱という緊急事態とはいえ、5番を託されるまでに首脳陣の信頼を勝ち取ったのは確かなことだ。「なんて言ってほしいですか?」という逆質問に対して、そう伝えると“山川らしい”言葉が返ってきた。
「すごくいいんじゃないですか。頑張っていると思います。期待してる言葉を言うあれでもないんですけどね。時の運というかね。だってね、みんなはコンちゃん抜けて、正木が入って。チャンスで(打席が回って)来たって言うじゃないですか。どんな状況でも、どんな場所でも、来た球を打つだけなので。野球選手ってそれだけだと思いますよ。明日とかもまた出ますしね。今度僕がそういう状況で回ってきても、打つかもしれないし、打たないかもしれないし。だからそれだけですよ」
最善の準備をしたのなら、あとは「時の運」。シンプルで絶対に揺るがない思考が、山川らしかった。それはなおさら、正木が5番にまでたどり着いたことを評価するような意味でもあった。
この日の正木は3打数無安打と快音こそなかったものの、四球を選んでチャンスを広げる働きは見せた。5番で起用した理由について、奈良原浩ヘッドコーチは「近藤の後ろを打っていたっていうところを買って、5番に置いてるっていう部分はある」と明かす。ここまで主に務めてきた6番としての成績がそのまま評価され、打順が1つ繰り上げられることになった。
象徴的なシーンがあった。8回2死一塁で山川に打席が回ったが、初球が暴投で2死二塁に状況は代わった。一塁が空いた状況に山川も「『あー』と思いました」と、勝負を避けられる可能性を感じたそうだ。一発が出れば逆転という展開で、申告敬遠が宣告されてもおかしくない状況だったが、日本ハムベンチは山川と勝負した。結果的に四球で歩くことになり、正木は右飛に倒れたが、簡単に“目の前で敬遠されない打者”に成長した証でもあった。
優勝へのマジックナンバーを「5」としながら、訪れた最大の試練。だが、どんな時も選手にできることは「変わらない」と山川は言う。
「言い出したらもうキリがなくないですか。ギータさん(柳田悠岐外野手)がいればっていう試合もいっぱいあったじゃないですか、絶対。誰かがいればとか、誰かがいないからとかっていうのは、めちゃめちゃ結果論なんで。僕たちが結果論を考えながら試合することはまずないです。(山崎)福也が良かったじゃないですか。なかなか打てなかったっていうところだけだと思いますけどね」
リーグ優勝を目前にして、近藤が抜けた穴は確かに大きいかもしれない。それでも試合に出る選手がやることは何も変わらない。どこまでも足元を見つめる山川の言葉が、正木が5番を託されるようになった意味を物語っていた。