周東佑京から正木智也へ…「アドバイス」はなんと言った? 本人によるまさかの“仕込み”

ソフトバンク・周東佑京(左)と正木智也【写真:矢口亨】
ソフトバンク・周東佑京(左)と正木智也【写真:矢口亨】

正木の6号ソロに隠されていた周東との揺るがぬ“信頼関係”

 選手会長の言葉には見えない力がある。11日の楽天戦(楽天モバイルパーク)、1点リードの6回1死で正木智也外野手が打席に入った。瀧中の直球を思い切り振りぬくと、打球は左中間スタンドに飛び込んだ。ダイヤモンドを1周し、ベンチに戻ってきた後輩を満面の笑みで迎えたのが周東佑京内野手だった。

「打席に向かう前に(周東)佑京さんからアドバイスをもらい、シンプルに思い切っていこうと打席に入りました」。貴重な追加点となる6号ソロを放った正木は、球団広報を通じてコメントを出した。周東から受け取った助言とはどんなものだったのか。当事者たちに話を聞くと、まさかの“真相”が明らかになった。

「2打席目が終わった後、佑京さんと次の打席どうしようかなーみたいな話をしていた時に、『ホームラン狙っていけよ、ホームランいけよ』みたいな感じで言われたので。本当にホームランを打ちにいったというか、強いスイングをしたら初球からいいタイミングで振れて。それで(本塁打は)いいスイングができたのかなと思います」

 周東とのやり取りを明かしたのは正木だ。アーチが生まれるまでの2打席は空振り三振と中飛に終わっていた。相手先発の瀧中に苦しめられていた後輩の姿を見た周東のアドバイスは実に“的確”だった。

「ホームラン打てって言いました。あと、『タイミング遅くね?』って。なんか分からないですけど、遅そうに見えたので」。この日はベンチスタートだった周東。正木のわずかな変化に気付けるのは優れた観察眼もさることながら、普段から後輩の姿をしっかりと見守っていることの証だ。

 ベンチに戻ってきた正木にかけた言葉はあったのか。そう問うと、「何も言ってないですよ」とそっけなく口にした直後、「あ、『佑京さんのアドバイスで打てましたって(広報に)言っとけ』って言いました」とにやり。広報コメントの真相は自らの“仕込み”だったことをいたずらっぽく明かした。

楽天戦で本塁打を放ったソフトバンク・正木智也【写真:矢口亨】
楽天戦で本塁打を放ったソフトバンク・正木智也【写真:矢口亨】

 周東の言葉は、口にした本人の思い以上に正木の背中を押していた。「(最近は)なかなか気持ちよくスイングできる打席もなかったんで。気持ちよく振るというか、思い切り振るっていう気持ちで入れました」。

 11日の試合前時点で9月は打率.185、1本塁打、3打点と調子が下降気味だった。「どうしてもヒットがほしくなってくると、ちょっと当てにいったりとか、自分のスイングをした中でボールを捉えにいくみたいなことができなくなってくる。1、2打席目もそれができていなかったので。(周東の言葉で)意識してやりました」。シンプルなアドバイスは、正木の大きな気付きとなった。

 2人の間には揺るがぬ信頼関係がある。7日の西武戦(みずほPayPayドーム)で得点圏を3度もフイにした正木に対し、翌日に周東が「そろそろ打てよ」と明るい口調で声をかけた。変に慰めるのではなく、あえて辛口のエールで後輩の心を軽くした選手会長らしい一言だった。

「めちゃくちゃしゃべる先輩ですし、本当に優しいので。色んな事を教えてくれたり、ライト(に入った時)でも、センターからいろいろと声をかけてくれたりするので。そこは本当に頼りにしているし、尊敬もできる先輩だなと思います」。正木の表情に言葉を飾った様子は全くなかった。

 その思いを受けた周東はあくまでクールだった。「いやいや普通じゃないですか、それは。選手会長らしいとかじゃなくて。チームメートとして普通じゃないですか」。1本の広報コメントに隠された2人の関係。先輩から後輩に受け継がれる思い。ホークスの伝統がそこにはあった。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)