栗原陵矢&甲斐拓也がかけた言葉 重かった“9回の価値”…大山凌が明かした涙の真相

ソフトバンクの大山凌(左)と栗原陵矢【写真:竹村岳】
ソフトバンクの大山凌(左)と栗原陵矢【写真:竹村岳】

9回に6点を奪われて逆転負け…松本裕が先頭打者に四球を与えて緊急降板

 数々の悔しさを味わってきた先輩が、寄り添ってくれた。ソフトバンクは4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)に5-8で敗れた。9回に6点を奪われて、まさかの逆転負け。緊急登板となった大山凌投手が2/3回を投げて3点を失い、プロ初黒星を喫した。試合を締めくくるためにマウンドに上がったドラフト6位ルーキーに、先輩たちはどんな声をかけたのか。「大丈夫」――。栗原陵矢内野手、甲斐拓也捕手を直撃した。

 3点リードで9回に突入した。ベンチが送り込んだのは守護神の松本裕樹投手だったが、先頭打者に四球を与えてしまう。首脳陣はすぐさま腰を上げ、大山の名前を審判に告げた。1死を取ったものの、その後の3連打で1点差とされ、なお1死一、三塁から万波の遊ゴロの間に同点の生還を許してしまった。ここでバトンを受けたドラフト2位ルーキーの岩井俊介投手も流れを止められず、さらに2失点でリードを奪われた。

 大山はプロ13試合目の登板。まだまだキャリアの浅いルーキーだ。9回無死一塁でマルティネスを左飛に打ち取ったが、3ボールからのミスショットだった。甲斐がマウンドに向かったのは、このタイミング。試合を締める役割を期待されて送り出された大山に、どんな言葉をかけたのか。

「ああいう場面は僕も含めてだし、大山には思い切って投げてこいと。難しく考えずに自分の球でバッターと勝負してきてくれというのは伝えました」

 プロ初先発した7月17日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)でも、先発マスクを被ったのは甲斐だった。3回3失点で降板した大山に、甲斐も「しっかりリードしきれなかったところが今日はあった」と反省するしかなかった。先輩としても引っ張る立場だからこそ、右腕と一緒に悔しさも責任も味わってきた。この日の姿にも「そんなに変わりはなかったし、もちろん誰でも緊張する。ただしっかり腕を振って投げていたと思います」と語った。

 甲斐が言葉をかけた後、すぐさま右腕のもとに駆け寄ったのが栗原だった。一言ではなく、少し時間を取って大山と会話する。その内容を「いつも通りで大丈夫だよって。しっかりバッターと勝負したら大丈夫だからっていうことを言いました」と明かした。マウンドにいる投手が一番苦しいことは、野手もわかっている。栗原も力強い表現で、大山の“次”に期待していた。

「9回を行くこと自体すごいことですし、そこは任せられているということに自信を持っていい。また次、機会があればやり返せばいいと思います」

 試合後、選手たちを集めてミーティングが行われた。2点を失った岩井もプロ6試合目の登板。ルーキー2人は、首脳陣から「お前たちは悪くない」と、背中を押されたようだ。厳しい場面での登板に、大山も「チャンスが回ってきたところで結果を出せなかったのはすごく悔しいです」と受け止める。逆転負けを喫して、ロッカーに戻った時。2人の先輩から、また励ましてもらった。

「又吉さん、今宮さんたちと終わった後に話していて、まず『1年目からこんなところで投げさせてもらっているのは自信にしていいし、誰の責任でもないから。責任を感じないで』というのはすごく言ってくれました。(責任を)感じないと言ったら嘘にはなるんですけど、次に期待して声をかけてくれる人がいっぱいいるので、その人たちのためというか。次に登板する時が来たら、全員三振を取りに行くくらいの強い気持ちで、やり返したいなと思います」

 試合中ではあったが、ベンチでは大山の目に光るものがあった。溢れていった感情に「ベンチに戻って、もう自分がマウンドを降りたのはどうしようもないので。俊介(岩井)とかを応援しようと思ったんですけど、そう思ったら余計に悔しくて泣けてきました」と語った。涙するほど忘れられない一戦となったが、試合後の取材に立ち止まり、1つ1つの質問に丁寧に答えていた。律儀で実直な男がいつか、チームを背負えるだけの投手になってほしい。

(飯田航平 / Kohei Iida)