8月23日のウエスタン・阪神戦では最速147キロをマーク
焦る気持ちをぐっと押し殺して、ただ「その時」が来るのを待っていた。左肩痛のため、長きにわたるリハビリの日々を送ってきた田浦文丸投手。今季初の公式戦登板は8月11日のウエスタン・広島戦だった。1軍はシーズン終盤に差し掛かる時期での復帰。左腕にとっては終わりの見えない毎日だった。
23日の同・阪神戦では1イニングを投げて1安打無失点と好投し、直球は最速147キロを計測した。5月末にはブルペンで「135キロもいかないくらい」と口にしていた田浦にすれば、一定の手ごたえを感じられる登板だった。同日時点で2軍戦に3試合登板し、計3イニングを無失点。徐々に本来の姿を取り戻している段階だ。
もちろん目指すのは今季中の1軍昇格だが、左腕はストレートに目標を口にすることはなかった。「最初は(1軍で)投げたいと思っていましたけど……」。決して弱気になったわけではない。マウンドに戻るまでの日々が、田浦の思考を変えたのだという。
「自分への怒り、不安、もどかしさ…。それは全部ありました。でもそこで立ち止まっても仕方がない。後は時が解決してくれるやろって思っていました」
左肩に違和感を覚えたのは今年1月。そこから公式戦に登板するまで実に7か月もの時間がかかった。「長かったですね。ここまで投げられなかったのは野球人生でもなかったです」。普段から自身の感情を表に出さない左腕だが、心の内は荒立っていた。
「自分の思ったボールが投げられるように。そこだけしか見てなかったですね」。黙々とリハビリに励み、ようやく一筋の光が差し込んだのは6月も中旬を迎えたころ。140キロ近いボールが投げられるようになったという。「技術面をよくするために修正していく中で上がったり下がったりはありましたけど、その段階にまでこられたことが大きかった」と振り返る。
2軍での登板を重ねている中で、1軍への道もおぼろげに見えてきたのか――。そう問うと、田浦は冷静に言葉を選んだ。「試合では投げられる形にはなってきたけど、まだまだ納得できるボールではないですね」。そしてこう続けた。
「最初は(1軍で)投げたいと思っていましたけど、自分が上がれるレベルにまで達していないのは分かっているので。焦って自分を見失うよりは、そこまで(状態が)上がってきたときに、あとは首脳陣が判断することなので」。苦しい日々を乗り越えてきたからこそ、ここがもうひと踏ん張りする時期だと感じている。
試合で投げられるようになった喜びは、明るい表情が増えてきたことからも分かる。「こうやって普通にキャッチボールができるようになったので。野球が少し楽しくはなりました」。楽観はせず、ただ現実を真っすぐと見つめて歩を進めていく。24歳の心がたくましくなったのは間違いない。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)