1つしかない捕手というポジションを勝ち取るのは簡単なことではない。持ち味の打撃でアピールしながら、捕手としても成長し続けなければならない。今季、渡邉陸の2軍戦出場は34試合。嶺井博希捕手や谷川原健太捕手らとの併用で、出場機会自体も多くない。
3連戦だと、スタメン捕手で出られるのは1試合だけ。代打からの途中出場もあるが、得られる打席数も多くない。ただ、渡邉陸は「1軍に行けば当然そんな感じになると思う。1カード3試合で1回出られるかどうかだと思うので、そういうのを想定しながら」と、現状と向き合っている。
打率.223と、思うようなアピールは出来ていない。2軍戦がない時には志願して3軍戦にも出場し「実戦の感覚というか、実戦の打席が欲しかった。ピッチャーとの間合いみたいなものは、試合でしか感じられない」とも話していた。打撃の状態は上向きつつあるが、「ちょっとずつですけど、なかなかマルチ(安打)が出ないんです。4打数1安打とかなんで、1回ガツンと行きたいですね」とまだまだ納得できる域には達していない。
「昔のいい時の感じが残ってるんで、そこに行きたい気持ちと、毎日コンディションが違うんで、その日に合ったものと、日々葛藤してます」。“昔のいい時”というのは強烈なインパクトを残した2年前のことだ。「(初めて1軍に)上がった時の前ぐらいから良かったので、そのイメージ。動き的なところは今はあまり考えすぎず、その時持っていた球の見方とか、そういうところはいろいろ思い出して『こうだったな』っていうのは考えています。技術的なところで戻るってよりも、ピッチャーとの間合いの中での見方やタイミングの取り方は覚えてるんで」と語る。
2年前の感覚は鮮明に残っている。過去にとらわれているわけでも、過去に戻ろうとしているわけでもない。ただ、あの時の感覚が殻を打ち破りきれていない現状から抜け出す上で、大きなヒントになりそうだ、とも感じているのだ。
あの時、プロ野球人生は大きく変わった。「一瞬ですね。ファンも増えて、ホームランを打った日とかも“神様扱い”みたいになったので」。2打席連続本塁打は衝撃的で、ファンの心にも強く刻まれた。ただ、そこからの2年で取り巻く環境も変わった。「そういうのも経験して、応援してくれる人も増えて、でも1年ダメで、自分でも感じるんですけど、応援してくれる人もちょっと減ったな、みたいな」。
待望の“打てる捕手”の誕生だと、期待は一気に膨らんだ。ただ、活躍が続かなければ、熱が引いていくのも早かった。「面白いじゃないですけど、わかりやすいなって、そういう世界だなっていうのはめっちゃ感じますね」。プロ野球という世界を知り、酸いも甘いも味わった。少なくなるファンを実感しつつ「変わらず応援してくれてる人もいる」と、どんな時でも応援してくれるファンのありがたみを感じ、感謝と決意を滲ませる。
危機感を抱いていないわけがない。「ズルズル行きたくないっていうのはあります。やるしかない。自分で結果を残して、チャンスを掴みたいですね」。先日、同じ捕手登録の吉田賢吾捕手が2軍で好成績を残して1軍に昇格し「打って結果を残さないと上がれないなってのは実感しました」。いつか来るかもしれないチャンスに備えて、23歳は戦い続ける。