心の底から伝えた「おめでとう」 見てきた4人の姿勢…支配下逃した古川侑利の心中

ソフトバンク・古川侑利【写真:竹村岳】
ソフトバンク・古川侑利【写真:竹村岳】

会見に向かう4人のスーツ姿を見て察した支配下昇格

 心から「おめでとう」を伝えた。自身には届かなかった支配下登録の連絡……。それでも、古川侑利投手はライバルたちを全力で祝福し、自身の決意もより一層強くなった。

 24日に育成選手だった中村亮太投手、三浦瑞樹投手、前田純投手、石塚綜一郎捕手が支配下選手契約を結び、球団から発表された。その日の朝、スーツ姿の4人とすれ違った古川はすぐに察して声をかけた。「支配下組? おめでとう!」。オールスター期間のタイミング。「そろそろあるんじゃないか」と思っていたからこそ、状況はすぐに飲み込めた。

「僕は(支配下に)なれなかったですけど、そうやって支配下になった人たちは一緒にファームでしっかりやってきたんで、頑張ってほしいです。その中で僕ももっとやっていかないといけないなと思いますし。僕も頑張んなきゃなってさらに思いました」

 朗報は届かず、古川自身、当然、悔しい気持ちもあるに違いない。それでも、心から「おめでとう」と言えるのは、彼らの野球に向き合う姿勢を知っているから。ストイックな古川も「野球に取り組む姿勢とかも素晴らしいし(支配下に)なるべくしてなって、周りからもちゃんと認められるじゃないですけど、そんな風に思われているんじゃないかなと思います」という。

 支配下登録の会見の中で、中村亮はこんなことを語っていた。「たくさん育成選手がいる中で、そういう育成選手の先輩たちからも『おめでとう』という温かい言葉とかを掛けてもらった分、自分が支配下になったということは、より1軍の舞台で結果を出さなくちゃいけないなと感じました」。中村亮の脳裏に浮かんだ先輩の1人が、まさに古川のことだった。

 古川も中村亮の思いを感じ取っていた。「なんとなくそう感じますよね、確かに。でも、プレッシャーをかけるつもりで言ったんではなくて、本当にこうやって選ばれているんで。亮太も(これまでに)悔しい思いをしていると思う。育成で入って、支配下になって、また育成に戻って、今回また支配下に戻って。2度目の支配下なんで、頑張ってほしいなっていう思いが強いですね」。後輩の支配下返り咲きに、優しい笑みが浮かんだ。

 2人は練習中からなにかと競い合っていた。ランニングメニューでは指定されたタイム設定よりも負荷を掛けて、切磋琢磨していた。古川自身、これまでトレード、戦力外、現役ドラフト、育成落ちと4球団を渡り歩く中で様々な経験をしてきたからこそ、中村亮の苦労や悔しさが理解できる。そんな苦難を乗り越えての支配下復帰は、古川にとっても刺激を貰う出来事だった。

 まだ、支配下登録の枠はあと1つ残っている。「もちろん7月末までは、それを取りに行くっていう気持ちで行きます」。まだ、支配下復帰の可能性が閉ざされたわけではない。期限まで残り1週間を切っても「僕の性格上、諦めるとかはないですね」と、古川はクシャっと笑って話す。

 仮に支配下復帰が叶わなくとも「そこで『なんかモチベーションが……』とかはならないですね。やっぱり野球が好きなんだなって、そこにたどり着きます」というのが古川だ。「例えそれ(期限)が終わっても、もっと視野を広げたらいろんな可能性がある。もちろん、結果を残せば、来年契約してもらえるっていう可能性もあるし、いろんな選択肢もありますし、それをモチベーションにやるだけです。えげつない成績を残して、えげつない球を放り始めたら、オフに支配下に戻るっていうこともなくはないと思う。そうやって可能性がある限りは全うしたいですね」と、今までと変わらぬ不屈の精神でこれからも突き進んでいく。

 今季のここまでを「結構、点数を取られているじゃないですか、今年。でも『ああでもないこうでもない』って、いろいろ言いながらやってるんで、めちゃくちゃ(野球が)好きなんだろうなって」と笑って振り返る。投げられることへの感謝の気持ちを込め、マウンドに上がる際、必ず帽子を取って一礼する。大好きな野球を全うする。前しか見ない。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)