1番近藤、2番柳田…4番今宮 データが導く“適正打順”、役割より重視すべき点は?

「5番・近藤健介」は適切なのか…データで迫る
「5番・近藤健介」は適切なのか…データで迫る

永遠の議論テーマ「打順」…小久保監督が重視してきた4番と5番の関係性

 今季から小久保裕紀監督が新たに就任したことで、昨季までとは選手起用に変化が生まれている。その代表例が打順だ。新加入の山川穂高内野手を4番に抜擢。その後ろの5番に球界最高の打者・近藤健介外野手を配置している。

 この打順に対しては、様々な意見がある。今季好調の要因と見る人もいれば、組み替えでより得点を増やせるはずと考える人もいるようだ。実際のところ「5番・近藤」は適切なのか。今回は小久保ホークスの打順の妥当性にデータで迫っていきたい。

 小久保監督が近藤を5番に配置した意図は、鷹フルの単独インタビューで語っている通り、4番・山川との関係性。当初は「2番・近藤」も考えたというが、「逆にそれをしなくてよかったと思う」と語っている。打順を考える際、各バッターには“役割”が託され、前後との相性も大事にされる。

 しかし近年のデータ分析の結果、より多くの得点を奪う打順を組むためには“役割”ではなく、異なるポイントが重要となることがわかってきた。より重視すべきは「シンプルに優秀な打者に多くの打席を回す」こと。多くの打席を回すには上位打線に配置する必要がある。

 その好例とも言える打順を組んでいるのが、大谷翔平投手が所属するドジャース。大谷に加え、ムーキー・ベッツ内野手、フレディ・フリーマン内野手、ウィル・スミス捕手と、チーム内で図抜けた打力をもつ4人の選手がいる。ドジャースはこの4人を1~4番に集中させている。

 6月に1番・ベッツが故障離脱して以降は、2番だった大谷を1番に繰り上げ。NPBであれば、代わりに入った選手がそのままの打順、今回の例でいうと1番で起用されるケースも多いが、単に打順を繰り上げている。1番や2番に役割を課し、大谷にそれを期待しているわけではない。

 実際、打順ごとにどれほど打席数が違ってくるのか。1?9番の打席数平均を算出。2023年のNPBでは、1番打者には1試合平均4.58打席が回ってきたことになる。一方、最も少ない9番は3.71打席。大体1つ打順が下がるごとに1試合平均0.11ほど打席数が減少しており、それほど大きくはない数字と感じる人もいるかもしれない。

○1試合平均の打席数 ※カッコ内は143試合換算
1番 4.58(655)
2番 4.47(639)
3番 4.35(622)
4番 4.25(608)
5番 4.15(594)
6番 4.06(580)
7番 3.94(563)
8番 3.82(546)
9番 3.71(530)
データは2023年NPB

 しかし、シーズン通して見ると話は変わってくる。1番打者が平均655打席を得ていたのに対し、9番は530打席。実にシーズンで125打席もの差が生まれる。もちろん極端な例だが、1つ打順が繰り下がるごとにシーズン16打席ほど減少するようだ。1試合単位で見ればそれほど大きな差には感じられないかもしれないが、シーズン単位で見るとかなり大きいことがわかる。

近藤が「5番→1番」なら…ヒット&四球はいくつ増える?

 では、この「優秀な打者に多くの打席を回す」という観点で、あらためてホークスの打順別成績を確認する。ここで用いるのは「wRC+」(※1)という打撃指標。100を平均とした場合の打撃による傑出度を数値化している。150であれば平均の1.5倍、50であれば平均の半分の打力であることを意味する。

 パ・リーグ全球団の打順別wRC+を表したのが表1だ。まずホークス打線の打力の高さがよくわかる。平均以上を表すwRC+100以上の打者が9つのうち7つの打順を占めている。今季12球団断トツの得点力も納得できる。

 ただ今回、注目したいのはその並び。「優秀な打者を上位に」という原則から考えると、ホークスの打順にはやや疑問の余地が残る。特に問題に感じるのは、それほど多く打席が回るわけではない5番の値が200と図抜けて高いことだ。

 5番は近藤の打順だ。個人のwRC+は211。得点を生み出す力は平均的な打者の2.11倍にも達する。今季は極端な投高打低シーズンであるため、一般的な成績から歴史的とまでは感じないかもしれない。しかしこの211は、本塁打日本人新記録を達成した2022年のヤクルト・村上宗隆内野手(wRC+224)や、トリプルスリーを達成した2015年の柳田悠岐外野手(wRC+218)に肉薄する歴史的な成績だ。そんな打者が5番なのは、データ分析の観点から考えると、もったいない選択にも映る。

 また5番に限らず、ホークスの打順はやや重心が後ろ寄りの傾向にある。チーム2位のwRC+158を記録したのは3番打者。故障前の柳田、その後は栗原陵矢内野手が務める打順だ。その次の122は、山川が務める4番打者。強力な打者を中軸に配置する従来の考え方から言えば正しく、4番を中心にした打順編成にこだわりを持つ小久保監督の考えにピタリと合う。

小久保監督は4番を中心にした打順編成にこだわりを持つ
小久保監督は4番を中心にした打順編成にこだわりを持つ

 一方、優秀な打者に多くの打席を回すという観点から言えば、ロスが生じている。データでは、1・2番により強力な打者を配置できれば、より多くの得点を奪える打順になりそうだ。仮に近藤を1番に配置した場合、打順別の平均打席数に当てはめて考えるとフルシーズンで61打席もの違いが出る。

 今季の近藤に61打席を与えると、どれほどの成果を上げるか具体的に計算してみる。実に単打を10.9本、二塁打を3.2本、三塁打を0.4本、本塁打を2.5本、四球を9.5個増やす見込みだ。もちろん代わりにこの61打席を担当している打者が全く打てていないわけではないので、この分がそのままチームに積み上がるというわけではない。ただ、近藤の打席を削ることが得点を減らすイメージは沸きやすい。データ上での結論としては「5番・近藤」は最適解としては選択しづらい。

小久保ホークスになり大きく改善した1・2番事情

 しかし、小久保ホークスの打順の組み方には優れている点も見られる。過去のホークスと比較すると、その差は明らか。表2は、打順別攻撃力(wRC+)をホークスの過去年度と比較したものだ。

 まず気づくのは、さきほど重心が後ろ寄りにあると評した傾向は今季に限らず、過去10年で共通しているということだ。黄金期を迎えた2010年代のチームでも優れた打者は3番以降に集中。2014年にはなんと7番打者が155とチーム最高の値を記録。これはこの年ブレークを果たした柳田が主に7番を務めたためだ。

 重心が後ろ寄りになっているということは、1・2番の打力が高くないことも意味する。1・2番により強力な打者を配置すべきだという見方は、過去も共通している。どの年も3番以降に比べ1・2番の値が低い。これは1・2番に機動力を求めてきた結果だろう。

 ただ同時に今季は過去10年に比べると優秀なこともわかる。今季の1・2番のwRC+は102、107。ともに100以上、つまり平均を超えている。過去10年のホークスでともに100を超える年はなかった。2番打者のwRC+が158と極めて優秀だった2022年も1番打者は86。優秀な打者に多くの打席を回すという意識はそれほど高くなかったように思える。

1・2番を務める周東佑京(左)と今宮健太【写真:荒川祐史】
1・2番を務める周東佑京(左)と今宮健太【写真:荒川祐史】

 これは配置の問題というより1・2番を務める周東佑京内野手、今宮健太内野手が例年より好調という事情によるところも大きい。ただ、例年ほど1・2番による損失が小さいのは確かだ。

 より注目すべきは、数値的にはベスト打順だとは言い切れないホークスが、12球団で断トツの得点力を見せていることかもしれない。打順を組む際には「優秀な打者に多くの打席を回す」ことが重要だが、データによる打順の分析から得られる最も重要な知見は「打順をどう組むかより、そもそもラインナップに誰がいるかのほうが重要である」ことだ。基本的に上位に優秀な打者が配置されていれば、ベストな打順との間でそれほど大きな得点差は生まれないようだ。

 打順論はホークスに限らず、ファンの間でも大きな話題になるホットトピックのひとつ。もちろん効率のよい打順を組めるに越したことはない。ただそれが勝敗にそれほど大きな影響をもたらしているわけでもないことも頭に入れておきたい。「どう並ぶか」よりも「そもそも誰が並んでいるか」が重要なのだ。

「優れた打者に多くの打席を回す」打順は…山川は5番

○「優秀な打者に多くの打席を回す」打順例
1番 近藤
2番 柳田
3番 栗原
4番 今宮
5番 山川

 最後に、ホークスの推奨打順を具体的に組んでみたい。ただレギュラーが固定されているわけでもないので、上位打線の並びだけとした。重視したのは「優れた打者に多くの打席を回す」こと。ここでは柳田が故障していない状態を仮定している。データを優先すると、実際とはかなり異なった並びとなる。様々な打順が考えられるのも、今季の強さの裏返しとも言える。首位を走るチームが大きく打順を変えることがあるのか、指揮官の判断も注目される。

(※1)wRC+(weighted Runs Created Plus)
 打席あたりの得点創出の大きさを平均的な打者を100とした場合のパーセンテージで評価する指標。wRC+が130であれば。1打席あたり平均的な打者の1.3倍の得点力を発揮していると考えることができる。球場の有利・不利を均す補正を行っているため、環境の異なる打者を中立的に評価することができる。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。