1か月ほぼ会話なく「気まずかった」 10歳上と相部屋…前田悠伍が気を遣い続けた日々

ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

人懐っこいキャラで同期の同い年とは距離を縮めているものの…

 鷹フルでは今季の月イチ連載として、ドラフト1位ルーキーの前田悠伍投手を深堀りしていきます。今回のテーマは「気を遣い続けた1か月」。今だから笑い話にできる2月の出来事について明かします。野球で見せる真面目でストイックな一面と、オフの人懐っこさを持ち合わせる前田悠投手が入団して最初に直面した先輩との“壁”とは――。

 ドラフト1位とはいえ、前田悠は高卒1年目のルーキーだ。2軍に帯同している時は、年齢が最も若く、先輩たちに飲み物を持って行ったり、荷物を運んだりと、雑用もこなす。「別に苦じゃないというか、(大阪)桐蔭の頃もやっていましたし、桐蔭の方がキツかったので」。苦にすることなく、それどころか率先して楽しんでやっているようにも映る。

 同期入団の先輩たちの懐には早々に飛び込み、タメ口で話してしまうほどに気心も知れた存在となってきた。ただ、同期以外の先輩には「まだちょっと気を遣う」と語る。そうした先輩たちの中で、入団当初よりも距離を縮めることができたのは「渡邊さん」こと渡邊佑樹投手だという。同じ左腕だがプロ7年目の28歳は、前田悠より10歳上。地元や母校にも共通点はなく、最初は“壁”を感じる相手だった。

 18歳の前田悠にとって、渡邊佑との最初の接点は2月だった。「最初のキャンプで同じ部屋だったんです」。宮崎キャンプではA組が1人部屋、B組は2人部屋で、前田悠と渡邊佑という意外なコンビが相部屋だった。前田悠は「バリ気まずいなと思って……。最初は部屋でもほとんど、ほんまに朝に挨拶するぐらいで、話さなくて」と振り返る。キャンプイン当初は部屋でも緊張感のある日々を送っていた。

 実は先輩の渡邊佑も気を遣っていた。ドラフト1位ルーキーの同部屋が自分でいいのかと、接し方に困っていた。「最初はちょっと話しかけたんです。最初の1日、2日くらいは一緒に食事会場に行ったりとか。だけど、逆になんか向こうが気を遣っているなと思って。だから、あとはもう自分が好きなタイミングで、と思って。好きなようにして欲しい」。あえて“放任”したのは、先輩としての配慮からだった。

 前田悠は「最初に聞いた時に、渡邊(佑)さんって歳が結構離れてるなと思って……。2、3歳ぐらい離れているのかなと思ってたんですけど、10個って聞いてちょっとそれはヤバいなと思って。めちゃくちゃ気まずかったです」。渡邊佑も「高卒で入っての10個上なんて、おっちゃんじゃないですか」と振り返る。今となっては笑い話だが、2人はそれなりの緊張感のまま、キャンプを過ごしていた。

 距離が縮まり出したのは、キャンプが終わってから。前田悠は「キャンプが終わって、僕が少しずつ2軍で投げるようになってから、気まずくならなくなりました。自分からも話しにいけるようになりました」。渡邊佑も「あの歳にしては落ち着いてるけど、おっちゃんからしたら子どもですよ。イマドキの子って感じですね。高卒で入って、僕だったらもっとペコペコしちゃうと思うんですけど、彼はそういうのもないし、普通に喋れるんで」と、印象を口にする。

「いい感じに自分からも話し掛けたりはしています。だけど、同期と同じか、となると……。同期の人は入団前からずっと関わりがあるんで、そこはもう慣れていますけど、2軍だと結構、歳が離れている人もいますし、そういった方には敬語を使ったりとかはもちろんしています」。まだまだ前田悠にとっては徐々に先輩たちとの距離を詰めている最中。この先、もっとたくさんの人に愛される存在になっていくに違いない。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)