“初登板イジり”に「もうええって」 溢れる本音…前田悠伍の脳裏に焼き付く苦い思い出

ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

「たまにみんなで笑い話というか、そういった感じになるんですけど…」

 鷹フルでは今季の月イチ連載として、ドラフト1位ルーキーの前田悠伍投手を深堀りしていきます。今回は脳裏に焼きつく“悔しい記憶”。チームメートからの“イジり”に、本音を明かしました。

 前田悠は6月6日、本拠地みずほPayPayドームで開催されたウエスタン・リーグの中日戦に先発した。1軍の本拠地マウンドは初だった。「良い結果を出せたらいいなと思っていました。初登板のタマスタの時は悪かったので、本拠地では良いピッチングがしたいなと思っていたので、良い結果を残せてホッとはしていましたし、楽しかったっていう印象が強いです」。6回を投げて3安打無失点。4つの三振を奪い、四死球もなしという投球だった。

 アマチュア時代から甲子園や神宮など様々なマウンドに上がってきた左腕は「今までやってきた中で、みずほPayPayドームが1番投げやすかったです」と笑う。「雰囲気も良かったですし、あれで観客が入った時にどうなるかっていうのはまだわかんないですけど、観客が入った方が僕は気分が上がるというか……。あと、土の感覚とかも硬いけど刺さるというか、そういった感じだったんで、僕はめちゃくちゃ好きでしたね」と良い感触があったようだ。

「甲子園も満員の中でやったことあるんですけど、そっちの方がアドレナリンも出ますし、力以上のものが発揮できるんで、そっちの方がいいです」。緊張して萎縮するどころか、それを力に変えられるのが前田悠という男。注目度の高い一戦だったが、前田悠は堂々たる姿を見せ、きっちり結果も残した。この好投に内心、安堵していた。悔し過ぎたプロ初登板が、脳裏に焼き付いていたからだった。

 4月20日、タマスタ筑後でのウエスタン・リーグ広島戦でプロ入り後初めての登板を果たした前田悠。悪天候の中でベースカバーの遅れや牽制悪送球など、自らのミスからピンチを招いて失点した。「期待されていたのに、エラーもあり、打たれたりもして、期待外れのピッチングだった。もう2回目は言われないようにというか、良いピッチングって言ってもらえるようなピッチングができて、挽回できたかなと思います」。本拠地での初登板は自身の中で“リベンジ”を期した登板だった。

 プロ入りしてから、最も悔しかった経験として、前田悠は迷いなくこの一戦を挙げる。「1イニングであれだけ自分が絡んだエラーをしたことないもですし、大体がボール先行だったりとかもあまり経験はないので……。そういったところはまだまだ力不足だと感じたので、あの試合が1番強いですね」。たかが1試合、されど1試合。悔しさが深く胸に刻まれている。

 苦い記憶が蘇る時がある。「たまにみんなで笑い話というか、そういった感じになるんですけど……。『めちゃくちゃ最初エラーしてたな』とか、そういったことを言われるんです。その時は笑ってごまかしてはいるんですけど、だんだんイラついてくるんです」と打ち明ける。先日もそんな話になったことがあった。「内心『ちょっと、もうええって』って思っていました」。笑い飛ばしつつも、負けん気の強さを覗かせる。

 悔しさだけで終わらせず、糧にもしている。「逆にそれがあったからこそ、もう、そういうミスはしないぞっていう気持ちにはなれるんで、逆に最初にあれだけミスしておいてよかったかなと思います」。4軍での練習日は全体練習が終わると決まってコーチを捕まえて、フィールディング練習に汗を流す。自らコーチに個別練習をお願いする“志願の特守”だ。

 当初は、奥村政稔4軍ファーム投手コーチ補佐に「下手くそ」と言われていたが、「やっぱり『最初に比べたら上手くなっている』って言われて、最初は本当に自分でも酷かったなって思いました。フィールディングとかカバーリングとかは練習したら上手くなるってことは、本当にみんなから言われたことなので、少しずつ上達しているんじゃないかなと思います」。感じられる自分の成長に、少し安堵しているようだった。

 誰しも、最初から全てのことをこなせるわけではない。苦手なことがあって当然だ。出来ないことは練習する。出来るようになるまでとことんやる。前田悠は高みを目指して、とにかく徹底的にやるべきことに日々取り組んでいる。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)