柳町がオリックス古田島のプロ野球新記録を阻止する一打
“打率.344の代打”が意地の一振りを見せた。27日のオリックス戦(京セラドーム)。3点ビハインドの8回無死1塁で、柳町達外野手が古田島成龍投手の真っすぐを捉えた。あと一伸びでスタンドインという打球はフェンス直撃。この日チームで唯一となる適時打となった。
「(記録は)知っていたので。僕が止めちゃったな、って感じでした」。相手の古田島は、初登板から23試合連続無失点のプロ野球新記録がかかったマウンドだった。「マジで実家近いです」。互いに茨城出身と縁ある右腕から放った一打だった。
5月28日に今季1軍初昇格してからバットが止まらない。27日終了時点で21試合に出場し、66打数23安打の打率.348をマーク。打ちまくってはいるものの、今回のオリックス3連戦は初戦、3戦目はベンチスタートだった。悔しさは当然あるだろうが、下を向けない理由があった。
「もう本当にめちゃくちゃ頑張っているんで。僕も負けないように頑張るだけだなって。ずっと思っています」。柳町が刺激を受けているのは、同じ慶大出身の正木智也外野手、廣瀨隆太内野手の存在だ。
正木は今月21日に1軍昇格を果たすと、その日から全6試合でスタメン起用されており、26、27日と2試合連続で適時打を放った。「今年は3年目だし、常に危機感をもってやっている」。表情はこれまでと明らかに違っている。
ドラフト3位ルーキーの廣瀨も、牧原大成内野手や三森大貴内野手の相次ぐ怪我で空いた二塁のポジションを奪おうと必死だ。打率.243、2本塁打の数字以上に印象的な打撃が続いているだけでなく、守備でも大きな成長を見せている。
今季は3人とも開幕1軍を逃した。慶大三銃士の長男的存在といえる柳町が後輩に情けない姿を見せるわけにはいかない。終わりの見えない2軍生活でも下を向くことなく、黙々と準備を重ねてきた姿に、正木と廣瀨は口をそろえて「柳町さんがあれだけやっているのだから……」と語るなど、背中を追ってきた。
交流戦終盤からはスタメン出場を続ける後輩たちをベンチから見る機会も多い柳町だが、その姿をうらやむことは決してない。バットで結果を残すこと以外、自分の存在を示すことができないと分かっているからだ。
「思い切っていった結果がよかったなと思います」。27日の試合後も、普段と変わらぬ態度、口調で試合を振り返っていた。打率3割5分に迫る男が代打で控えるチーム。強さの一端をまじまじと見せられた試合だった。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)