6年目の今季は早くも自己最多20試合に登板、防御率1.71と抜群の安定感
入団から5年間抱えてきた、さまざまな“感情”は捨てた。「僕は“と金”にはならなくていいんです」。自らのメンタルを将棋に例えて明かしたのは6年目の杉山一樹投手だった。今季好投を続けている右腕の変化とは――。
2018年ドラフト2位で入団した26歳。最速160キロを誇る剛腕にかかる期待は常に高かったが、昨季までの5年間で通算47試合に登板し、3勝5敗2ホールド、防御率4.99と苦しい日々が続いた。そんな右腕が今季、見違えるほどの投球を見せているのには理由があった。
「僕は“歩”なので。このチームには飛車や角がしっかりいる。僕は途中で相手に取られる駒でいいし、3段目まで上がっても“と金”にはならなくていいんです」。小学校から駒を握り、現在も携帯のアプリでたしなんでいるという将棋になぞらえ、現在の心構えを明かした。
杉山らしくもある比喩に込めた思い。決して卑屈にも自虐的にもなったわけではなかった。「マウンド上で『打たれたらどうしよう』とネガティブになるのはダメ。かといって自分に対して過度な期待をかけるのもダメ。まっさらなメンタルが一番いいんです」。
2022年には開幕ローテに入りながら結果の出ない日々に悩み、「うつ病」を患った。もともとは明るい性格だが、考え込むと“底なし沼”にはまる繊細な部分もある。プラスもマイナスもない、フラットな心の重要性に気づいたのは今季に入ってからだった。
「良くても悪くても、今年が最後という気持ちでやっている」。不退転の覚悟で挑んだ今季は交流戦を終えた時点で、既に自己最多の20試合に登板。2勝5ホールド、防御率1.71と素晴らしい成績を収めながらも、「その思いはずっと変わらないですね」と気を緩めることはない。
表情を見れば“機嫌”が分かった杉山の姿はもうない。様々なシチュエーションでマウンドに上がるプロの中継ぎ投手の顔つきだ。「歩のない将棋は負け将棋」との格言もある。これからも“歩のマインド”で淡々とアウトを積み重ねていく。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)