打率.419でもバント…繋いだ柳町達は「晃さんなら打ってくれると」 中村晃に託した思い

ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】
ソフトバンク・柳町達【写真:竹村岳】

柳町の犠打から生まれた中村晃の決勝打…

 中村晃外野手の決勝打が中前に抜けると、球場は地響きのような歓声に包まれた。ベンチからはナインが一斉に飛び出し、殊勲の一打を放ったヒーローにこぶしを挙げた。優勝を決めたかのような盛り上がりが起きる、ほんの数分前。きっちりと自らの仕事をこなしたのは柳町達外野手だった。

 2点を追う7回に4連打で一気に追いつくと、なお無死一、二塁で柳町に打席が回ってきた。5月28日の1軍昇格後は打率4割をキープするなど絶好調で、5回の前打席でも左前打を放っていた。それでもサインは送りバント。しっかりと投前に打球を転がした27歳の胸中にあったのは、自主トレに師事したこともある先輩への“絶対的な信頼”だった。

「とにかくさすがだなって……。僕がいい形で送れば、晃さんならしっかり打ってくれるだろうなと。そういう信頼感を周りに感じさせるのはすごいなと」

 自分が決めてやるとの思いは胸にしまい、丁寧にバトンをつないだ。そう思えたのも、後ろに中村晃が控えていたからだ。

「苦しいこともあるし、全てが思い通りにいくわけはないので。弱音を吐きたくなるところも、変わらずに毎日淡々とやられているので。精神的な強さはさすがだなと思います」

ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・中村晃【写真:竹村岳】

 この日の決勝打が出るまでは10打席無安打が続くなど、ここまで開幕から打率1割台と苦しんでいる中村晃。柳町自身も開幕から2軍暮らしが続いた。先輩の姿を自身と重ね合わせることもあったからこそ、その「強さ」が際立って感じられた。

 柳町が1軍昇格後もチームは9勝4敗と変わらぬペースで白星を積み重ねている。開幕からテレビでしか見られなかった1軍の輪の中に入り、しっかりと戦力としてチームに貢献できている。ドームを後にした27歳の表情には充実感が漂っていた。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)