「負けていたら晃が…」 暴走と紙一重、好走塁を生んだ川瀬の準備と井出コーチの判断力

ソフトバンク・川瀬晃【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・川瀬晃【写真:荒川祐史】

勝利に導いた川瀬の安打と走塁「積極的に行こうって」

 ソフトバンクは8日、横浜スタジアムで行われたDeNA戦に5-3で勝利した。7回までは嶺井博希捕手の代打本塁打などもあり、3点をリード。しかし、8回に登板した松本裕樹投手が同点3ランを浴び、ゲーム終盤で追いつかれる展開となった。

 9回の先頭打者は川瀬晃内野手。「先頭だったので、集中することと好球必打で、積極的に行こうって。真っすぐを仕留める準備をしながら打席に入りました」。その言葉通りに2球目の直球を捉え、一塁への内野安打で出塁すると、続く周東佑京外野手の送りバントで二塁へ進塁した。

 1死二塁のチャンスを演出すると、今宮健太内野手が中前打。中堅手からの中継を受けた二塁手のファンブルもあり、川瀬が生還して勝ち越しに成功した。この1点が決勝点となったが、このワンプレーには川瀬の走力と、三塁コーチを務める井出竜也外野守備走塁兼作戦コーチの判断力が集約されていた。

「とにかく良いスタートを切る準備をして、井出さんが(腕を)回していたので、あとは僕が思い切って行くだけだった。あれは井出さんがすごいなと思います」

 この場面について川瀬はこう振り返った。DeNA外野陣は、バックホームに備えて前進守備を敷いていた。さらに、今宮が放った打球は球足が速く、本塁を狙うには難しい当たりにも見えた。

「自分の中ではいいスタートが切れたと思ったので、あとは井出さんが腕を回している姿を見て、全力で走りました」。それでも川瀬がスピードを緩めることなく本塁を狙うことができたのは、本人の準備と井出コーチの咄嗟の判断があったからだった。

「あれ(センターの捕球体勢)では、1人では投げられないので、カットプレーになる。完璧に来てたらアウトになると思いますけど、その中で何か起きればなっていう希望で。アウトになったとしても、バッターランナーがセカンドまで行ってくれれば、またチャンスになるので」

 勝機のある“ギャンブル”と判断したのは井出コーチだった。相手中堅手が右ひざをつくような捕球体勢を見せたことで、この先に起こるプレーを一瞬で予測し、川瀬を本塁へと向かわせた。「今日これで負けていたら、晃(中村)が……。なんとか勝ちたかった」。8回に喫した3失点の契機となったエラーをした中村晃外野手への思いも川瀬の走力に託して1点をもぎ取った。

「(中継プレーが)完全には来ないだろうっていう感じではあったので。ちょっと強引だけど、思い切って」と井出コーチ。1点差勝負の緊迫した展開。ひとつの判断が勝敗に大きく関わり、一歩間違えると“暴走”にもなり得る場面だった。それでもホークスが勝利を収めることができたのは、川瀬の準備と、根拠ある井出コーチの判断があったからだった。

(飯田航平 / Kohei Iida)