アーチストの先輩からの言葉が胸に残っている。ソフトバンクの廣瀨隆太内野手は、4日に行われたバンテリンドームでの中日戦で、嬉しいプロ初安打を放った。翌日に行われた同戦では、3回2死二塁の場面で、右前へタイムリーを放ち、プロ初打点も記録した。
「まずは、今年中にヒット打ててよかったです」。初安打を振り返り、安堵の表情を見せた。その表情の理由は、1軍に昇格してから初安打を記録するまでに17打席を要したからだった。
安打がなかなか出ない。そんな廣瀨の状況を見て声をかけたのが山川穂高内野手だった。廣瀨から相談をしたわけではなく、たまたま会話する機会があった宿舎への帰り道。何気ない会話の中で聞いた山川の言葉が廣瀨を勇気づけ、初安打へとつながった。
「いやいやお前まだいいやん、俺なんか20タコだよ」
こう語ったのは山川。山川から見た廣瀨も、落ち込んでいる様子ではなかったという。それでも、自身の経験から廣瀨には考え込みすぎないでほしいという思いがあり、声をかけたという。
「僕はずっと打てなくて、20打席目(実際には19打席目)で(プロ初安打となる)ホームランを打ったんですけど。最初スタメンの時っていうのは、もちろん行けると思ってというか、頑張ろうっていう感じでいくんですけど、やっぱり最初はうまくいかないんですよね。そうなっていくと、どんどんやばいやばいってなってくるんで。僕も同じ経験したので。僕にもそういうことはあったよって」
プロ11年目を迎えた今でもすぐに思い出すことができる初安打。「打つまでに時間がかかった時に、どういう風に初ヒットを打ったのかとか、どういう志でこれからを過ごしていくのかとか、そういうことが大事」。初安打が出るまでに悩んだ期間は、今でも山川の糧として活かされている。
そんな山川の気持ちは廣瀨にもしっかりと伝わっていた。「格上のピッチャーだったので、長打とかは狙わずに単打を狙っていきました」。フルスイングが廣瀬の持ち味ではあるが、まずは結果を残すために、できる限りの対応をした結果が初安打につながった。
「廣瀨は打っている方じゃないですか。打っているというか対応しているので。僕なんかもっと三振ばかりしていたので」。自身のルーキー時代と比較して、山川はこのように廣瀨を称えた。
廣瀨も、山川が見せた気遣いに対して「嬉しかったです」と笑顔で振り返る。自分の成績だけを考えるのではなく、気にかけてもらったことが何よりも嬉しかった。山川の何気ない言葉は、初ヒットの記憶とともに廣瀨の心に残っている。