後輩の記念に贈る“お揃いの靴下” 自身の初勝利よりも…鍬原拓也の若鷹たちへの優しさ

ソフトバンク・岩井俊介、大城真乃、鍬原拓也(左から)【写真:重田広報提供】
ソフトバンク・岩井俊介、大城真乃、鍬原拓也(左から)【写真:重田広報提供】

巨人時代の思い出「僕がやってもらって嬉しかったことなので」

 6年ぶりに福岡で掴んだ白星だった。6月4日に本拠地みずほPayPayドームで開催されたウエスタン・リーグの中日戦で勝利投手となったのが鍬原拓也投手だった。1点を追う8回に2番手登板して1イニングを無失点に抑えると、その裏に味方が逆転。「初勝利っていう自覚はありましたよ。ベンチで逆転した瞬間に言ってました。『おお、俺、勝ち投手や』って」。2軍戦とはいえ、今季からプレーするホークスでの公式戦初勝利。ウイニングボールは貰えなかったものの、節目の1勝になった。

「なんか福岡には縁があったのかな、と思います」。昨オフに戦力外通告を受けて育成選手としてホークスに入団した鍬原は、巨人の2017年ドラフト1位。プロ1年目の2018年6月14日、当時のヤフオクドームでホークスとの交流戦に先発し、5回2/3を投げて4安打4失点(自責3)でプロ初勝利を挙げた。今も、その時のウイニングボールは実家で大切に保管してある。それから6年。マウンドからの景色も立場も、何よりも着ているユニホームが変わった中で、福岡で掴んだ2度目の“初勝利”だった。

 ホークスの選手として手にした初勝利にも、鍬原は「(感慨とかは)そこまではないです」と言い切る。「ゼロに抑えることが仕事なんで。それができた結果、勝ちがついてきたので」。巨人時代に1軍で80試合に登板し、5勝を挙げた。当然、2軍で勝つことが目指してきたものではなく、自身の置かれる立場の変化を受け止めているからこそ冷静だ。

 ただ、後輩のこととなると話は違ってくる。鍬原は後輩たちのメモリアルは全力で祝うようにしている。同じ中継ぎの岩井俊介投手や大城真乃投手がウエスタン・リーグで初勝利を挙げた際にはお揃いの可愛い靴下をプレゼント。岩井も大城も「めちゃめちゃ嬉しかった」と喜び、大城にいたっては毎日のようにその靴下を履いている。

鍬原拓也がプレゼントした靴下【写真:上杉あずさ】
鍬原拓也がプレゼントした靴下【写真:上杉あずさ】
鍬原拓也がプレゼントした靴下【写真:上杉あずさ】
鍬原拓也がプレゼントした靴下【写真:上杉あずさ】

 鍬原はこう語る。

「僕も最初、プロに入った時はそういうふうにしてもらったので。僕がプロ初勝利の時は上原(浩治)さんに初勝利記念のシャツをもらいましたし、中央大出身の先輩の澤村(拓一)さんとかがよくしてくれたり、菅野(智之)さんもそうですし、上の人が色々とやってくれたので、僕が上になった時にはやってあげたいなっていう気持ちはありました。2軍でも初勝利って若い子にとっては嬉しいと思うんです。そういう嬉しさと一緒にプレゼントしてあげるっていうのは、僕がやってもらって嬉しかったことなので。今後、彼らが年上になった時に、後輩にしてあげれば、チームとしても良くなっていくんじゃないかな、というのは思います」

 優しい兄貴分となっている鍬原に、そういう意識が芽生えたのは「去年ぐらいからじゃないですか」という。「巨人でもそうですし、若返りの時期ってあるじゃないですか。年を重ねるごとに下がどんどん入ってくる。上が抜けていって、僕が上になっていく。立場的にも自覚を持ってやらないといけないと思うし、下の子の面倒も見ながら(やらないと)。自分のことばっかりじゃね」。年を重ねるごとに視野は徐々に広がっていく。

 当然、後輩たちから刺激も貰っている。「若い子の力っていうのはすごいなって感じますし、僕もまだまだ負けてないな、負けられないなっていうのはあります。いいピッチャーが多いので、それに負けないように負けないように、必死で食らいついている感じですね」。育成選手という立場で、当然、第一にやるべきは自分のこと。その中で、周囲に目を配り続けることで、鍬原は野球人として、人として、更に深みのある存在になっている。

 支配下登録の期限まで残りは2か月。7日の同リーグ・オリックス戦で2勝目をマークした鍬原の思いは、1つしかない。「それは春先からずっと変わらないです。このチームに呼んでもらった以上、このチームに貢献する、力になりたいっていう気持ちはずっとあるので、まず早く支配下になって、しっかり恩返しできたらなっていう気持ちはずっと変わらないです」。口にするのは、ホークスへの感謝と恩返ししかない。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)