上林誠知、単独インタビュー 今宮健太との電話で涙…今だから明かせる戦力外通告の秘話

中日・上林誠知【写真:竹村岳】
中日・上林誠知【写真:竹村岳】

2022年に右アキレス腱断裂の大怪我…今の状態は「力強さが戻ってきました」

 ソフトバンクは4日から6日まで、バンテリンドームで中日と戦って2勝1敗。カード勝ち越しを決めて、DeNA戦が行われる横浜へ向かった。鷹フルは中日の上林誠知外野手を単独インタビュー。戦力外通告を受けた時の秘話、今宮健太内野手とのやり取りで流した涙とは……。「寂しかったですね」。近況報告も兼ねてファンへのメッセージをお願いすると「福岡は今でも好きですし、忘れていないです」と感謝を語った。

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 職場を福岡から愛知に移して半年。名古屋には慣れたか聞くと「少しだけ……」と苦笑いする。「違いますね。こっちは広いなって思います、全体的に。福岡はいい感じに密集していると思うんですけど、広く感じますね」。今季はここまで36試合に出場して打率.209、1本塁打。5日のホークス戦では代打で登場し、レフトスタンドからも拍手が起きていた。左飛に終わったが、今の自分の姿をしっかりと見せることができた。

 2022年には、右アキレス腱断裂という大怪我を負った。「毎日痛いです」と話していた昨年と体の状態を比較すると「体はだいぶいいですね。アキレス腱も2年経って、だいぶ力強さが戻ってきました。疲労が溜まった時の感じも違いますし、体は大丈夫です」と笑顔になる。1軍の舞台で結果を出すために、努力する。野球ができる喜びを感じながら、チームのために奮闘しているところだ。

 昨年オフに、ホークスから戦力外通告を受けた。すぐに、知らない番号から電話が鳴る。声の主は、中日の編成関係者だった。「普通にジムで走っていてイヤホンしていたんですけど、電話が鳴ってすぐに気がつきました。普通に『うちとしては今すぐほしい』という感じで言われました」。最初に連絡をくれた中日を、新天地にするとすぐに決断した。“無職”の期間は思っていたよりも短く、覚悟は決まった。

「まずは安心しました。仕事が見つかった感覚だったので。戦力外がどうこうというよりは、新しい土地に来てまた一から経験するっていうのは大きいことだと思うので。そういう意味でも(戦力外通告という経験は)今後の人生でもプラスなんじゃないかなという感じです」

 ホークスを去ることになり、お世話になった人たちに1人ずつ、連絡を入れた。チームメートにもかける中で、今でも印象に残っているというのが今宮とのやり取りだ。「ずっと長く一緒にやってきた選手だったので。今でも応援していますしね、自分も」という今宮の存在。電話で自分から伝えた言葉も、もらった言葉も、大切に胸の中にある。

「体も心もちょっとボロボロですけど、あとちょっと頑張りたいと思っています」

「最後までもがいたらいいんじゃないか。お前が野球をやっているだけで嬉しいよ」

 電話を切った後に、ポロポロと涙が出てきた。1度、自分から電話をかけた人たちから掛け直しが来る。「今出られないや……」。ほんの少しだけ感傷に浸って、今度こそ前を向いてホークスとの別れを受け入れた。「最初にいろんな人にかけて、健太さんの後に高校の監督から掛け直しがあったんですけど、その時は出られなかったですね」。その時の感情についても「寂しかったんですかね」と表現する。大好きな先輩の言葉だったから、福岡での思い出は次々と蘇ってきた。

中日・上林誠知(左)とソフトバンク・今宮健太【写真:竹村岳】
中日・上林誠知(左)とソフトバンク・今宮健太【写真:竹村岳】

 初めて規定打席に到達したのは、高卒4年目だった2017年。11本塁打を放って日本一に貢献し、誰もがホークスの将来を背負うと疑わなかった。若かった時から1軍を経験していたからこそ「一緒にずっとやってきたメンバー、柳田さん、晃(あきら)さん、健太さん、その人たちは特別な思いがありますね。ギータさんと晃さんは外野でずっと一緒にいましたし、マッチさんとかウチさんとかポンさんもいますけど、思い入れはありますね」と振り返る。その中でも今宮は、中学時代から追いかけていた背中だった。

「自主トレも一緒にやっているわけではないですけど、自分からしたら“世代”なので。中学生の時によく甲子園も見ていましたし、若くから1軍で出ていて、一番年が近かったんです。最初に1軍に上がった時、健太さんが一番近かったので。僕が19、20の時に24歳とかで」

 4日から3日間、古巣のホークスと戦った。今宮も含め、久々に再会したナインとは「『体大丈夫ですか?』って感じでした。健太さんもいうてね、ベテランの方になってきたので」と明かす。離れても、今もホークスは「常に相手のチームから、倒そうじゃないですけど、王者じゃないですか。今年は順位も圧倒的ですし、優勝していなくても王者というか、どんな順位でもホークスって。そういうチームですね」と言う。自分の中で大切であることは、変わっていない。野球に対してはどこまでも真っすぐに、自分の全てを生かして、名古屋に居場所を作ろうとしている。

 最後に、ホークスファンに向けて、近況報告も含めたメッセージをお願いした。「自分もね、また一から作り上げていかないといけない段階です。寂しさもありますけど、ホークスの動向は常にチェックしています」と語る。そして、クールな表情を少しだけ崩して、こう言った。「福岡は今でも好きですし、忘れていないです」。

(竹村岳 / Gaku Takemura)