好調な1軍の事情もあり、2軍暮らしが続く井上と柳町
正直な思いが溢れ出た。
「今、結果は出ているけど、楽しくないじゃないですか」
開幕からファーム暮らしが続く井上朋也内野手は、こう口にした。ウエスタン・リーグで3割近い成績を残しながらも、好調な1軍の状況もあり、ここまで昇格はない。もどかしく、苦しい状況に置かれながらも「好きな野球」を精一杯、黙々とやり抜くと決意している。
ここまでウエスタン・リーグで37試合に出場し、打率.281、1本塁打、17打点をマーク。特に5月に入ってから、調子は右肩上がりで「しっかり(ボールとの)距離が取れているので。近いポイントでもしっかり強く打てている」と手応えを感じている。また「ちょっと打球速度を上げようと思って」と、最新鋭のマシン「iPitch」を使ってゴロのスピードを上げることにも取り組んでいる。
いつでもどこでもバットを握り、鏡や窓に自身の姿が映るところを見つけると、フォームチェックを始める。練習前もギリギリまでバットを振り、はたまた取材を受けている時もバットを離さない。「ずっとです。高校時代からの癖ですね」。常にバッティングのことを頭の中で考えている証だ。
「いつでも行ける準備をしています」といつ来るかわからないチャンスに備える。現在、首位を独走している1軍の状況に「強いなぁ」と本音も……。1軍が好調であるということは、2軍の選手からすれば、入れ替えのチャンスが少ないということ。特に三塁手は栗原陵矢内野手が、24日現在で5月の月間打率リーグ1位と好調だ。当然、栗原の成績はチェックしているが、「まずは自分のやるべきことをしっかりやる」ことにフォーカスしている。
複雑な胸中も、奮い立たせてくれる出来事があった。それは自分と同様、2軍暮らしの続く柳町達外野手と交わした会話だった。
「ちょっと達さんとお話したんです。今、結果は出ているけど、楽しくないじゃないですか。やっぱり(1軍に)上がれないので。悔しい思いをしているので。だけど『今、頑張って乗り越えよう』って。『ここを乗り越えたら楽やし、のちのちに生きてくると思うから』って。『好きなことをやっているのに、それを続けられなかったら、野球が終わった後も何も続けられないんじゃないか』っていう話をしました」
プロ野球選手は「好きな野球」を仕事にできている。2軍で結果を出しても、なかなか1軍のチャンスが得られないのはもちろん苦しいが、その一方で「好きな野球」はやれている。苦しいからといって「好きな野球」で頑張り続けられなかったら、この先、何も成し遂げられないのではないか――。そんな会話に井上はハッとし、奮い立たせられたという。
柳町もチーム編成上、まだ1軍のチャンスは巡ってきていない。複雑な思いを抱きながらも、1日1日を大切にプレーしている。柳町の前で弱音を吐いた井上。柳町は「気持ちはわかる。でも、苦しい悩みだったりはありますけど、悩めている幸せじゃないですけど、苦しい時こそ乗り越えられたら、もう1個、深みのある人間になれるんじゃないかなと僕自身は思うので。そういう会話をしました」と明かした。
「達さんはずっとそんな思いをしていると思うんで、お互いにそれを1軍に上がった時にぶつけられるようにしたいんです」と井上は言う。先輩との熱い会話が胸に響く。チャンスが来る時を信じて、全力で「好きな野球」に向き合い続ける。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)