報道陣の前では冷静も…クラブハウスで爆発したイライラ 前田悠伍が秘める負けん気

ソフトバンク・前田悠伍【写真:長濱幸治】
ソフトバンク・前田悠伍【写真:長濱幸治】

4月20日のデビュー戦は自身のミスもあって1回2失点「めちゃくちゃ悔しかった」

 鷹フルでは、今季の月イチ連載として、ドラフト1位ルーキーの前田悠伍投手を深掘りしていきます。4月20日のウエスタン・リーグ広島戦(タマスタ筑後)でプロデビューを果たしたゴールデンルーキー。初登板後にクラブハウスで露わにした感情とは……。左腕の秘めたる“負けん気”に迫ります。

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 クラブハウスに戻ると、感情が露わになった。ぶつけようのない自分への不満……。記念すべき実戦デビューを飾った前田悠の胸に湧き上がってきたのは「イライラ」だった。

 高卒ルーキーは、プロ入り後しばらく体作り中心の日々を送った。ドラフト1位で入団した前田悠も例外ではなく、春季キャンプは宮崎でのB組で過ごしたが、他の選手とは別メニュー。先輩達が次々に実戦に入っていく中、それを横目に黙々とトレーニングに励んできた。自身も首を長くして待ち望んでいた実戦デビューの時は4月も半ばを過ぎた頃にやってきた。

 緊張よりも「楽しみです」と語っていた一戦だったが、結果は悔しいものとなった。多くのファン、メディア、球団関係者、首脳陣、選手たちの注目を集める中で、7回から2番手としてマウンドに上がった。雨の中という厳しいコンディション。自らのベースカバー遅れや牽制ミスもあり、1回を投げて2安打2失点。ほろ苦い初登板になった。

 試合後、報道陣の取材を受けた前田悠は冷静に、淡々と質問に答えていた。結果を受け止め、大人の対応と言わんばかりの姿を見せていた18歳だったが、心中は波風が立っていた。「めちゃくちゃ悔しかった。もうずっとイライラしていて」と頭を掻く。

 先輩たちが愛情いっぱいの声をかけてくれたり、イジってくれたりもした。同じルーキーの村田賢一投手にイジられ「もっと優しくしてくださいよ」と言い返すやり取りもあったとか……。冷静に見えて、心中は穏やかではなかった。取材を終えて、クラブハウスに戻ると、その悔しさを露わにしたのだという。

 高校時代もそうだった。「自分にずっとイライラしていたというか、なんでこうできなかったんだとか、そういった思いをずっと持っていたので……。周りの同級生とかも僕が怒っているなってわかった時は、全然話しかけてこなくて。多分、態度に出てたんじゃないかな」。冷静沈着に見える前田悠だが、胸の奥底にはとてつもない“負けん気”を秘めている。

 もちろん、悔しいだけで終わらせないクレバーさも持ち合わせている。初登板の夜、前田悠は自室でその日の投球を映像で繰り返し見直した。「反省とかもしっかりいつも以上にしたんで、次の日には反省点とか、そういったところを全部踏まえて練習に入れました」。切り替えるのも早かった。悔しさを抱えても、翌朝までには「切り替えられますね」と言い、引きずるようなことはなかった。

 あれから1か月ほどが経った。前田悠はデビュー戦を「しっかり準備とかは出来ていたと思うんですけど、その場のコンディションとかにもなかなか対応できずに、本来のピッチングというか、力が出せなかったっていうのが一番あって。あとはピッチング以外のミスも出たので、これからの課題が明確に分かった試合なので、今思えば本当にいいミスをしたというか、あの時にミスしといてよかったかなって」と振り返る。

 2度目の登板は4月28日、3軍遠征先の韓国で迎えた。先発して3回を1安打無失点。「ピッチングのことに100パーセント集中してるんですけど、“投げた後は野手”というところを今まで以上に意識しました。ファースト、セカンド方向に飛んだ打球は全部反応しようっていうことをずっと頭の中では考えていました。とにかく前回より早く行こうっていう気持ちで、ずっとやっていたんですけど、映像を見たらまだまだ遅いなって感じでした」と反省を忘れていなかった。

 公式戦初先発となった5月8日のウエスタン・リーグのくふうハヤテ戦(ちゅ~るスタジアム)は4回2/3を投げて3安打1失点。球数もプロ入り後最多の51球を投げた。「初回の1球目からしっかり全力で投げられました。最後は少しバテてていたんですけど、プロ相手に全力で投げて、最後にバテたっていうのは、次に繋がるかなと思ったので。しっかり1球1球全力で投げられたっていうのが一番よかったんじゃないかなと思います」。登板を重ねるごとに一歩ずつ進歩を遂げている。

 肉体面でも確実に変化している。「基本ウエート(トレーニング)を重点的に。下半身も上半身も含めて重量もしっかり上げて、量や質も上げてやってる感じです」。プロ入りしてまだ半年足らずだが、確実に体の変化も感じている。大阪桐蔭時代、ウエートトレーニングはほとんどやっていなかった。

「ピッチャーは基本、下半身しかやらなかったんですけど、冬の間しかやらなくて。上半身は本当にほとんどやらないです。冬以外は本当にたまに夏とかにちょっと入れるぐらいで、ほとんどやっていなかったですね」

 試合に登板しながら、並行してトレーニングもハードに行うのは初めての経験。当然、疲労や体の張りが強く出て、辛い時もある。ただ、プロとして乗り越えなければいけない壁。「初めてなんですけど、そこはやっぱり超えていかないと力もつかないと思うので、しんどい中でもやれば力もつくと思うので。そういったところを意識してやってやっています」と必死に取り組んでいる。

 成果は出てきている。「みんなにも『下半身ゴツくなったな』とか言われたりしますし、自分自身もちょっとゴツくなったなと思う時もあります。(体成分分析で)体を測ったりする時も、毎月(数値が)上がっている」と笑う。数値アップが分かると、素直に「よっしゃ!」と喜ぶという。大人びた雰囲気の裏には、こうした素直さやあどけなさがある。

「投げている感覚も日に日によくなっているので、しっかりレベルアップは出来ているんじゃないかなと思います」と成長も肌で感じていた。次回登板は5月19日のウエスタン・リーグ広島戦(由宇)の予定。未来のエース候補は、一歩ずつ着実にステップを踏んでいく。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)