春季キャンプ初日に肋骨骨折の渡邉陸が2軍帯同「前向きっすよ、めちゃくちゃ」
「選手会長っぽいこと言ってきましたね」
いたずらっぽく笑ったのは渡邉陸捕手だ。6年目の今季は「バケモノになる」と異例の目標を掲げ、肉体改造に取り組んだものの、春季キャンプ初日の2月1日に左第1肋骨を疲労骨折。長期離脱を余儀なくされ、地道にリハビリに取り組む中で励みになったのは、選手会長の周東佑京内野手からかけられた言葉だったという。
4月下旬に行われた3軍の韓国遠征で実戦復帰した渡邉陸。その後は3軍戦で実戦を重ね、5月10日から2軍に帯同するなど着実に歩みを進めてきた。故障からおよそ3か月、プレーできない日々を「今となってはそんなに長くなかったですけど、(リハビリを)やっているときは長かった気もしますし……」と振り返る。今春のキャンプ中、LINEに一通のメッセージが届いたという。
「シーズンはまだ始まってないから。全然大丈夫」
送り主は今季から選手会長を務める周東だった。「選手会長っぽくなったなって」。渡邉陸が5学年上の先輩に“軽口”を叩けるのも、2人の関係性が深いから。もちろん、感謝の気持ちも大きい。「励まされましたね。本当にそうだなって。早く野球をやりたいなって思いました」。
スケールアップを目指し、昨オフから肉体改造に着手した。現在の体重は昨季から約5キロ増の97キロ。打球速度は172キロをマークし、ファームにいる選手の中ではトップの数字を計測したという。「オフにやりたいことができた。体も大きくなって力もついたし、やってきたことは間違いなかったと思います」と手応えをつかんでいる様子だ。
5月3日の3軍戦を電撃視察した王貞治球団会長の言葉が胸に刺さった。「会長が『野球人生は短い』とおっしゃって。確かに(プロ生活は)長くて20年とかじゃないですか。焦る気持ちはないけど、悔いがないように、覚悟を決めてやろうとはいつも思ってますね」と決意を新たにするきっかけとなったようだ。
目標はあくまで1軍での活躍。「あの楽しさを1度味わうと、ちょっとした喜びがちっぽけなものに感じちゃう。あれに勝るものは、やっぱりこっち(ファーム)じゃ、なかなかないので」。1軍の試合は毎日見ているといい、「あの打線に入りたいなと思います。マジで入りたい。絶対楽しいですもん」と笑みを浮かべるほどだ。
表情に悲壮感がないのは、とにかく野球に集中しているから。「毎日、試合が楽しみですね。早く打席に立ちたいとしか思わないです。誰が結果を残そうとやるべきことをやるだけ。前向きっすよ、めちゃくちゃ」。来たる日まで、がむしゃらにバットを振り続けるだけだ。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)