ベンチが明かす“リクエストの基準”…甲斐キャノンを呼んだ三森の隠れたファインプレー

ソフトバンク・本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチ(左)と談笑する三森大貴【写真:長濱幸治】
ソフトバンク・本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチ(左)と談笑する三森大貴【写真:長濱幸治】

サヨナラ勝ちの裏に“隠れたビックプレー”…ベンチと選手の意思疎通が実った

 ソフトバンクは7日、日本ハム戦(みずほPayPayドーム福岡)に2-1で勝利した。延長12回無死満塁の場面、代打で登場した周東佑京外野手のサヨナラ犠飛で決着。大事な首位決戦をものにした。

 緊迫した試合展開の中で、試合の流れを左右するような出来事があった。8回表の2死一塁の場面。四球で出塁した日本ハム・野村佑希内野手の代走として送られたのは、五十幡亮汰外野手だった。俊足が売りの五十幡は初球から盗塁を仕掛けるも、ソフトバンク・甲斐拓也捕手がこれを阻止。一度はセーフと判定されたが、ホークスベンチが「リクエスト」を要求し、判定が覆ることとなった。

 試合が終盤だったこともあり、勝敗に直結しかねないワンプレー。塁審の判定通り、ベンチもセーフだと見えたのか、すぐにはリプレー検証を要求せずにいた。会心のリクエストが行われるまでに、選手とベンチとの間にはどのようなやり取りがあったのか? そこにはホークスの細やかなルールがあった――。

「足が入ってんのかなと思ったけど、途中でこうやって(リクエストをアピールする仕草)やったから」

 こう語るのは奈良原浩ヘッドコーチだ。「ベンチからだと微妙なところはわからないんで。選手にはどちらにしてもジャッジと違う場合はアピールしてくれと言っている」。リクエストを審判に要求する際は、ベンチの判断ではなく、選手からの“アピール”によって要求することが多いという。

「選手がやってと言ったら基本的にはやりますね。当事者が1番わかるんですよ、タッチプレーとか特に。パッと見て、アピールしてこない時はやらないですね」。奈良原コーチも選手時代に何度も際どいプレーを経験してきたからこそ、当事者の判断を尊重しているという。

 ベンチにアピールをしたのは三森大貴内野手だった。奈良原コーチは「甲斐(拓也捕手)があそこにドンピシャで投げたっていうのが1番大きいですけど」としたうえで、自身のジャッジと違うと判断した三森の“ファインプレー”だったと笑顔を見せた。

「正直アウトだという自信はなかったですね」。そう振り返ったのは三森だった。「今宮(健太内野手)さんと確認して。『やってみようか』って」。二遊間の判断は様々な状況判断の末に下されたものだったという。

「ここまでリクエストは使っていなかったので、失敗してもあと1回は残っている。イニングも8回と終盤だったし、あそこで2死二塁がチェンジになれば、ものすごく大きな違いになる。もし覆らなくても、(検証中に)時間が取れてピッチャーも少し落ち着く時間ができたと思ったので」

 結果的にはリクエストが実り、最高の形となった。「甲斐さんの送球が完璧だったので」と先輩を立てつつも、「心の中ではガッツポーズしたくらい、うれしかったですね」と三森は笑みを浮かべた。

“キャノン”を炸裂させた甲斐も、「アウトになってくれてよかったです」と胸をなでおろした。さらに、その甲斐に対して感謝の意を示したのが先発した有原航平投手。「あれは本当に大きいプレーなので。ありがとうって感じです」。判定が覆るとすぐに、マウンドから甲斐に向けて深々とお辞儀するような仕草を見せた。

 有原が8回を1失点(自責0)に抑える好投を見せる中、ホークス打線も日本ハムの投手陣を打ち崩せない状況だった。緊迫した投手戦の様相だっただけに、8回の盗塁阻止は大きな意味があるワンプレーだった。結果的にチームは劇的な勝利を収めることになったが、三森の判断がホークスを勝利に導くファインプレーだったことは間違いない。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)