切り替えは「バスで10分」 前日の悪夢すぐ雪辱…津森宥紀が伝承する“中継ぎの極意”

ソフトバンク・津森宥紀【写真:小池義弘】
ソフトバンク・津森宥紀【写真:小池義弘】

前日サヨナラ負けを喫した津森は9回を締めて西武打線にリベンジ

 雪辱の機会はすぐにやってきた。5日に敵地ベルーナドームで行われた西武戦。4点リードで迎えた9回に、小久保裕紀監督がマウンドに送り出したのは、前日サヨナラ負けを喫していた津森宥紀投手だった。「やられた次の日に津森いっておけ」。指揮官の“粋な計らい”に津森は結果で応えた。

 先頭の佐藤龍を遊ゴロに打ち取ると、次に迎えたのは、前日にサヨナラ打を浴びた外崎だった。見逃し、ボール、ファウルで追い込み「ガチで三振を狙いにいきました」。前夜の悔しさもあって、自然と力が入った。ファウル、ファウル、ボールのあとの7球目、152キロの真っすぐを中前に弾き返されてリベンジならず。それでも渡部、古賀を連続三振に仕留めて試合を締めくくった。

「とりあえず0点に抑えられたので良かったです。すぐに投げさせてもらえて、個人的にもここからまたスタートできそう、というのはあります」。前夜の屈辱を晴らすべく、登板機会を用意してくれた小久保監督ら首脳陣に感謝した津森。1イニングを無失点に抑えて、チームの連敗脱出に貢献した。

 悪夢のサヨナラ負けも、気持ちの切り替えは“10分”で終わった。前日の試合後、宿舎へと戻る道中。「帰りのバスで10分くらい考えて、それで切り替えました。昨日は打たれましたけど、今日が来るんで。今日抑えないといけないんで」。毎日、試合に備えなければならない中継ぎ投手は1つのミス、1つの敗戦を引きずっている時間はない。すぐにやってくる登板に向けて、いかに気持ちを切り替えるかが重要。サヨナラ負けという悔しい結果にも、さっぱりと津森は頭も心も切り替えた。

 その重要性を教えてくれたのは偉大な先輩だった。昨季限りでホークスを退団し、今季からDeNAでプレーする森唯斗投手。「1年目からずっと森さんといたので、その時に森さんが教えてくれたましたし、それで気持ちはスパッと行けるようになりました」。2019年のドラフト3位で東北福祉大から入団した津森。森は当時、守護神として君臨し、リリーフとしてのあり方を若手たちに伝えていた。

 津森もそんな森の教えを吸収していた1人。プロ入りからリリーフ一筋で、ここまで179試合に登板してきた。初登板での初球先頭打者満塁本塁打という衝撃のデビューに始まり、昨季のクライマックスシリーズ第3戦など、数々の悔しい思いも経験してきた。その度に気持ちを切り替え、立ち上がってきた。今年が5年目。今ではルーキーの澤柳亮太郎投手や岩井俊介投手らに、森から教わってきた中継ぎのあり方を継承する立場になっている。

 試合前には倉野信次投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)とも会話を交わした。「変な力みがあってフォームがバラバラになったりする。リラックスして腕を振るのは振るんですけど、気持ち的には全員三振とるつもりで投げていました」。前日の反省を生かして、西武打線に真っ向からぶつかっていった。

 とはいえ、津森は4日の試合で喫した1点が今季初失点。シーズンに限らず、キャンプ中の対外試合、オープン戦でも失点しておらず、実は“今年初失点”だった。13試合に投げて防御率0.71。中継ぎながら、4勝を挙げてリーグトップタイと、その貢献度は計り知れない。貴重なリリーバーとして、ホークスになくてはならない存在だ。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)