徹底して管理する「負担」、前日には伝える「投げない」 倉野コーチが語る投手陣“激変”の理由

単独インタビューに応じたソフトバンクの倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)【写真:荒川祐史】
単独インタビューに応じたソフトバンクの倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)【写真:荒川祐史】

鷹フルの単独インタビュー…語られた先発&中継ぎの投手運用の工夫とは

 倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)が鷹フルの単独インタビューに応じた。2022年から2年間、米国で指導者としての経験を積み、今季から再びホークスに復帰。開幕して1か月以上が経ち、ここまでの投手陣について語った。最大のテーマは「投手運用における工夫」。意識していることは、選手にとって起用を明確にしてあげることだった。「もう投げない」と事前に伝えるようなシチュエーションとは?

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 開幕して30試合を終えて、チーム防御率2.08、71失点はリーグ1位の成績。昨季は先発でも規定投球回数に達した投手が0人など、課題を持って迎えたはずのシーズンで“激変”を見せている。3年ぶりにホークスのユニホームに袖を通した倉野コーチの目には、課題と収穫はどんなふうに映っているのか。

「課題は、いかに今の状態を続けられるかというところになる。中継ぎであれば疲弊してしまわないようにというのは考えていますし、先発であれば1イニングでも長いイニングというのは基本なんですけど、とりあえず6回までは行ってほしいというのは思っていますね。5回だと中継ぎに負担がかかるので、6回まで行ってくれると今の中継ぎ陣だと、今は9人入っていますけど、9人とも高いレベルで投げていけるメンバーが揃っている。そういう意味では6回まで行くとかなり優位に立てると思っています」

 リリーフ陣はここまで3試合に連続して登板することはあっても、3日連続の登板はない。目の前の一戦に勝つことはもちろんだが、カードや週、月単位で登板数を管理しているようにも見える。倉野コーチが大切にしているのは肩を作る回数と、後日のフォロー。「ブルペンは準備がある。そこをいかに少なくできるか、少なくしてすぐにマウンドに上がれる状況を作れるかどうかは一番考えるところ。ただ必ずしも計算通りには進まないので、負担をかけたらその後のフォローであったりは大切にしています」と頷く。

「選手にとって投げるか投げないか、不明確な状況は負担になります。僕も経験あるので、なるべくそれは減らしたいと思っているんですけど、試合の展開上、作りすぎることもある。そうなったら次の日にフォローして『じゃあ今日は負担を少なくしよう』とか。その1試合を勝ちにいく時に仕方ないことは当然出てくるので、それはそれでなんとか頑張ってもらって、次の日から考えていくっていうことはしていますね」

 4月中、13時開始だったある日。それまで2連投をしていた投手が、午前9時30分ごろにドーム入りしている姿を見かけた。すでに野手はグラウンドに姿を見せている時間帯だったが、倉野コーチは「『投げない』というのは前の日から言っている時は、遅く来ていいって言っているんです。大体この時間くらいまでには来て、体を動かしてくれたらいいとは言っていますね」と、柔軟な考えで中継ぎ陣のコンディションを管理している。

 ビジターでの工夫もある。これまでなら野手と同じ時間にドームに到着できるように宿舎を出発していたが、今は「遠征先でもなるべく無駄な時間がないように中継ぎのバスの出発を遅らせたり、なるべく選手の負担を減らす工夫はしています」と言う。一定の節度と、野手へのリスペクトは当然持つ中で、選手それぞれがベストのパフォーマンスを発揮できるように首脳陣が考えを出し合って、今この位置にいる。足並みを揃えることは必要だが、固定概念を取っ払ってでも、選手のパフォーマンスを優先する体制ができている。

マウンドに集まるソフトバンクナイン【写真:荒川祐史】
マウンドに集まるソフトバンクナイン【写真:荒川祐史】

 ロベルト・オスナ投手、松本裕樹投手、津森宥紀投手が2連投をしている状況で迎えたのが、4月29日の西武戦(みずほPayPay)だった。先発のカーター・スチュワート・ジュニア投手が6回4失点で降板すると、又吉克樹投手、ダーウィンゾン・ヘルナンデス投手、長谷川威展投手が登板。無失点で抑え、最後は柳田悠岐外野手のサヨナラ3ランで白星をもぎ取った。打った柳田とリリーフ陣の能力がもちろんではあるが、必勝パターンを温存したとしても、今の中継ぎ陣の層はかなり厚い。

「いくつかプラン、パターンがあって、試合展開によって変えていくようにしています。その日だったら前日にはその3人(オスナ、松本裕、津森)には『もう投げない』ということは伝えていましたし、選手にとってもそこが今明確に、なるべくシンプルに考えられるような環境作りはテーマにしています。ある程度は試合前にいろんなシミュレーションはしていますので、大体、考えられる状況は全てシミュレーションしているので、その想定内で行ってはいます」

 使う投手と使わない投手をハッキリさせておく。その上で大差でのリードとビハインド、逆に僅差でのリードとビハインド、そして同点の5パターンを最低でも用意しておく。「中継ぎがやっていることは、出る状況をあらかじめ試合前に伝えること。細かく想定しますので、選手の状態を考えながら『この点差ならこの投手』と、監督と投手コーチでシミュレーションしていますね」と、小久保裕紀監督も含めた首脳陣のミーティングは欠かさない。目の前の一戦に勝つため、そして選手のパフォーマンスを維持、向上させていくためだ。

 先発陣に目を向けるとどうだろうか。ここまでは開幕戦で先発した有原航平投手を筆頭に大津亮介投手、大関友久投手、リバン・モイネロ投手、東浜巨投手、スチュワート・ジュニアらがローテーションを守っている。数字から見ても高いパフォーマンスを発揮しているが「持っている力をどれだけ、1週間後に発揮できるかというところ。コンディション作りと、試合の反省を次の日に、全投手、話すようにしています」と、ここでもコミュニケーションは必須な作業だ。

ソフトバンクの倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)(左)【写真:竹村岳】
ソフトバンクの倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)(左)【写真:竹村岳】

 先発投手なら中6日、6人という枚数を揃えて曜日を固定することが、ベーシックなイメージがある。しかし、このセオリーにも倉野コーチは柔軟な考えを示す。

「もちろん固定するのが一番楽というか、考え方は楽ですけど、必ずしも固定することが選手のパフォーマンスを安定させることに繋がらない。もちろん、バラバラだったらあれなんですけど、固定する時もありますし、ちょっとローテを変えて間を空けるというのは、選手のコンディションを一番に考えていますので。先発投手もそうですけど、中継ぎもコンディションが良ければ1軍にいる投手はある程度は高いレベルのパフォーマンスを出しますので。そればかりを考えていますね」

 日々の練習でも休息をしっかり入れつつ、先発投手なら登板間隔を空けてコンディションを整えさせる。全てはマウンドで全力のパフォーマンスを発揮してもらうためだ。次回は、投手を統括する倉野コーチから見た「育成投手の現状」に迫っていく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)