自称「地味キャラ」の味ある働き “今宮の代役”から脱却…川瀬晃が明かす胸中

西武戦に出場したソフトバンク・川瀬晃【写真:小林靖】
西武戦に出場したソフトバンク・川瀬晃【写真:小林靖】

「レギュラーを狙うというより、まずは試合に出ること」

“地味な選手”だって、味があっていい。ソフトバンクの川瀬晃内野手の働きが光っている。4日に敵地・ベルーナドームで行われた西武戦では7回に同点に繋がる三塁打を放つなど、2安打3出塁。小久保裕紀監督が「チームになくてはならない存在」というプロ9年目が、その存在感をじわじわと高めていっている。

 3日と4日の西武戦では今宮健太内野手に変わって「2番・遊撃」でスタメン出場。3日の試合でも1安打を放つと、この日は5回先頭で2試合連続の安打となる左前安打をまず放った。1点を追う7回には1死走者なしで、西武先発の今井から右中間を深々と破る三塁打。続く柳田悠岐外野手の中犠飛で同点のホームを踏んだ。

「塁に出ることが自分の役目。あとに柳田さん、山川さん、近藤さんっていういいバッターがいるので、とにかく自分ができることは塁に出ること。それだけを意識してやった結果、間を抜けてくれた。その気持ちは常に変わらず、常に打席に立っている」。決して長打の打てる打者じゃないのは自覚している。どんな形であれ、塁に出ること。欲張らずに自分の役割を果たそうとしたからこその、同点に結びつく一打になった。

 2015年のドラフト6位で大分商から入団し、プロ9年目を迎えた。高校時代の同級生は広島の森下暢仁投手だ。ホームランを打てる打者ではないが、内野全てをこなせるユーティリティ性や、バントやエンドランといったチームバッティングに徹することのできる献身性で、徐々にチーム内での評価を高めてきた。2022年に73試合に出場すると、昨季は自己最多の102試合に出場した。

 昨季まで2年間、2軍監督を務めていた小久保監督からも絶大な信頼を寄せられる。就任直後から「自己犠牲のできるヤツがいないと試合には勝てない。そういうことをできるのはお前しかいない」との言葉をかけられてきた。柳田や近藤、山川といったスター選手だけではチームは成り立たない。それを存在として最も体現しているのが、川瀬という選手だ。

 貴重なバイプレーヤーでありながら、常に今宮からのショートのレギュラー奪取を掲げている。毎オフ、それを目標にして己を鍛え上げてきたが、シーズンが開幕したいま、その心中は変化しているという。

「シーズンは始まっているので、レギュラーを狙うっていうよりは、まずは試合に出ることが一番。自分の結果にこだわって行けば、ショートだけじゃなくていろんなポジションで試合に出ることが増えると思う。シーズン入る前の気持ちと、シーズン入ってからの気持ちってのは全く違う感じですね」

 レギュラーで毎試合のようにスタメンに名を連ねることを諦めたわけではない。ただ、シーズンが始まれば、何よりも優先されるべきはチームの勝利。そのために、自分に課された役割はなにか――。それを川瀬はしっかりと理解している。

「もちろん頭から出たいっていう気持ちは変わらず、でも、試合に出ることがシーズンに入ったら一番だと思うんです。試合に出られれば、自分ができる最大限のことをするだけ。その結果、たくさん試合に出て、いずれ今宮さんみたいなレギュラーって言われると思う。まずは自分の立場を理解しながら、確立していきたい」

 常にスタメンで試合に出るわけではない。ベンチで出番に備えることもあれば、チーム状況によってはスタメンで出ることもある。「去年もこういう試合の出方は多かったので。自分がやるべきこと、求められていることは塁に出ること。途中から出るのとはやっぱり全く違いますね」。試合への関わり方によって異なる、求められる役割。9年目にして、その違いを理解し、今では川瀬の武器になっている。

 小久保監督からの厚い信頼も感じている。「もっと頑張らないといけないなと思いますし、もっとやってやろうっていう気持ちが強くなってくる。もちろん自信にもなりますし、それがやっぱり一番です」。決して目立つ存在ではないが、4月27日の西武戦ではサヨナラ打を放って脚光を浴びた。自らを「地味な選手」というが、そんな選手がいるからチームが成り立っていることを忘れてほしくない。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)