王会長が異例の3軍戦視察→敗戦に猛ゲキ「何軍とか関係ない」…伝えたかった“鷹魂”

3軍の試合へ視察に訪れたソフトバンク・王貞治球団会長【写真:長濱幸治】
3軍の試合へ視察に訪れたソフトバンク・王貞治球団会長【写真:長濱幸治】

「育成のホークス」は今や昔…常勝軍団の復権へ会長がイズム注入

 居ても立っても居られなかった。ホークス3軍戦が終わるやいなや、王貞治球団会長は足早に一塁側ベンチへ向かった。首脳陣のミーティングが終了すると、自ら若鷹たちの前へ。「野球人生は長くないんだから。命を懸けるくらいの気持ちでやらないと」。約5分間の猛ゲキで伝えたかったのは、若手でもベテランでも変わらない「ホークス魂」だった。

 ホークス3軍は3日、独立リーグの四国アイランドリーグplus・愛媛マンダリンパイレーツ戦(タマスタ筑後)に1-2で敗れた。2日の同戦も5−8で敗れており、これで2連敗。異例の3軍戦視察となった王会長の前で雄姿を見せたかった選手たちだったが、6安打で1得点のみ。さみしい内容に終わった打線に向けてゲキを飛ばしたのには理由があった。

「1軍、2軍、3軍、4軍だといっても関係ない。我々にとっては戦力なんだから。誰が上がってきてくれてもいいんだから。出てきてほしいんだよ。3軍で(1軍との)距離を感じちゃっているかもしれないけど、そんな距離はないよと。ましてや同じような年代で出てきている人もいるわけだから。『次は俺だ』っていうくらいの気持ちでね」。王会長が口にしたのは極めてシンプルな理論だった。

 かつては2010年の育成ドラフトで入団した千賀滉大投手(現メッツ)、牧原大成内野手、甲斐拓也捕手がそろって主力に成長。さらには2014年入団の石川柊太投手、2017年入団の周東佑京内野手と、育成ドラフトから逸材を続々と輩出し、「育成のホークス」が球界を席捲した。一方で、近年のドラフトは支配下、育成ともにやや物足りないと言わざるを得ない現状だ。

 王会長の言葉はそのもどかしさを打破するための大きなヒントとなる。「練習は準備なんだから。試合でうまく結果を出している人はどうやっているのか。1軍の選手でも遠慮せずどんどん聞きに行くとかね。積極的に自分が上手になろうとしないと。監督、コーチが上手にしてくれるわけじゃないからね」。5月20日には84歳を迎えるが、野球への情熱は変わらないままだ。

「会長効果」はさっそく現れたようだ。この日の3軍戦に「2番・指名打者」で出場した6年目の渡邉陸は、試合後さっそく室内練習場で居残り特打を実施。約1時間ほど汗を流した。「野球人生は長くないという言葉がすごく胸に刺さった。本当に一日一日を無駄にしないように。とにかくやるしかないです」と前を向いていた。

 今年3月のオープン戦期間中に1軍合流する機会を得た育成2年目の盛島稜大捕手も力を得たようだ。「試合前に(王会長)来られると聞いて、めったにないことなので打ちたかったんですけど……」とこの日無安打に終わったことを反省しつつ、「3割打てば一流なんだから、7割は打てなくて当然だと(言われて)。自分は結構引きずるタイプなので、切り替えの重要性を学びました」と目を輝かせていた。

 現在1軍は首位を快走する好調ぶりだが、先を見据えれば若鷹の成長なくして常勝軍団の復権はない。“王イズム”を存分に吸収した選手たちが大きな成長を遂げてくれることを期待したい。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)