三ゴロに栗原陵矢は絶句「マジか…」 延長12回の大ピンチ、内野5人の緊張感「飛んで来んな」

ソフトバンク・杉山一樹【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・杉山一樹【写真:荒川祐史】

28日の西武戦、延長12回1死満塁の大ピンチに杉山は「野手の方々に申し訳ない」

 絶体絶命のピンチに、グラウンドにいたナインはどんなことを思っていたのか。「飛んで来んな」と思っていた内野手も……。ソフトバンクは28日、西武戦(みずほPayPayドーム福岡)で3-2のサヨナラ勝利を飾った。投手6人を繋いだ中で、最大のピンチは延長12回に訪れた。マウンドにいた杉山一樹投手をはじめ、海野隆司捕手や三森大貴内野手、川瀬晃内野手、打球を処理した栗原陵矢内野手がその瞬間の胸中を明かした。

 両チーム一歩も譲らない展開の中で、延長12回に突入した。ホークスが送り出したのは杉山。2安打と四球で1死満塁のピンチを迎えた。誰もが失点を覚悟した状況で、外崎が放った打球は三塁を守る栗原のもとへ。ホームゲッツーが成立して、ホークスの負けはなくなった。2試合続けての延長戦で疲れがたまる中、理想だった併殺打にホークスベンチも総出でナインを出迎えていた。

 重圧も緊張感も、一身に浴びていたのがマウンドにいた杉山だろう。佐藤に四球を与えて1死一、二塁になったところで、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)がマウンドに行った。かけられた言葉を、杉山が明かす。

「腹括って、行ってくれ」

 端的な言葉で背中を押された。自身のことを「ネガティブ」だと表現する杉山も「そんな(後ろ向きな)ことは考えなかったです」と目の前の打者に強い気持ちで向かっていった。「いやぁ、今日はやばかったです。野手の方々に申し訳なかったですけど、腹は括っていました。3人で(抑えることが)行けたらまた流れも来ると思っていたので」と、開き直って外崎と対峙していた。

「四球は出しましたけどストライクが入らない感じではなかったですし、海野の配球もすんなりと自分の中で入ってきました」。延長12回という特有の難しさも、杉山なりに感じていたという。「抑えたら負けがなくなる状況だったので、そこだけですね。もし点を取られて、裏(の攻撃)で点が取れなかったら負けでしたし。それまでも両チーム、けっこう残塁もあって、どっちか(の点数)が動くかなというのは思いながら見ていました」と振り返る。小久保裕紀監督の「どっちに転んでもおかしくない」という言葉の意味を、杉山もマウンドで感じていた。

ソフトバンク・杉山一樹【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・杉山一樹【写真:荒川祐史】

 捕手としてバッテリーを組んでいたのは海野。見ている側が手に汗握る状況だっただけに、マスクを被る海野も「半端じゃないですよ」と苦笑いする。心境としては「後ろにそらすこともダメで、それが一番やってはいけない。キャッチャーなら全員、それは考えています。その中で(攻め方)考えながらという感じでした」。相手打者はもちろん、バッテリーミスにも細心の注意を払っていた。「打たれる、打たれないも考えますよ。だけど、その中で自分からミスしてはいけないと一番思っていました」と汗を拭った。

 二塁を守っていた三森は、この日に1軍昇格。同日の阪神戦の試合前、タマスタ筑後での練習中に松山秀明2軍監督から昇格を伝えられた。自身の車でドームに到着すると、試合の前半は体を温めるウオーミングアップに時間を費やした。今月4日に登録抹消されて以来の1軍で、いきなり迎えた緊迫する場面。「もちろん緊張もしますし、楽な場面ではなくてキツいですけど。そこでいいプレーをするために毎日練習している」と前だけを見る。ピンチの中で内野手としての心境は人それぞれだが、「僕は“飛んで来んな派”です」と笑えるのも、最高の結果で切り抜けたからだろう。

 三塁手として打球を処理した栗原。「めちゃくちゃ緊張しましたけど、あれだけ投手が頑張っていますし、なんとか野手で守り切りたい、勝ち切りたいというのはあったので。必死でしたよ」と、とにかく集中するしかなかった。実際にゴロが飛んでくる直前。「キャッチャーのサインが見えて、バッターの特徴もあるので『うわぁ、来そうやな……』って感じていました。実際にバンって来た時は『マジか』って思いましたけどね」と、一瞬一瞬が緊張の連続だった。

 ホームゲッツーという結果で、チームの負けもなくなった。栗原も吠えながら拳を握り、「死ぬほど嬉しかったです。自分がゲッツーを取ったというよりも、まずはチームが負けないということ。杉山がすごく必死に投げていたので、そこに対しても嬉しかったです」と満面の笑みで語る。“飛んで来い”と思う派ですか? と尋ねると「すみません、全然思わないです(笑)」と苦笑いだったが、昨年から本格的に始めた三塁守備が確かに実ったプレーだった。

ソフトバンク・川瀬晃(右)【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・川瀬晃(右)【写真:荒川祐史】

 遊撃だった川瀬は「なんとかゼロで帰りたいなと思っていました」と率直な思いを話す。1死一、二塁から右打者の岸が左前打を放ち、満塁となった。この打球はフォークを引っ掛けたゴロが三遊間を抜けていったものだった。同じく右打ちの外崎を迎え、「(こっちに打球が来ることは)予測していましたし、杉山は球が速い。外崎さんも仕掛けてくるだろうなと思っていたので、準備はしていました」という。「最高です。あれ以上ないですし、杉山がよく投げてくれました」と力強いガッツポーズを見せていた。

 選手とは相反するように、首脳陣の落ち着きぶりはさすがだった。小久保監督は「信じて見ていました」とキッパリ。手に汗を握らなかったかと問われても「全然(笑)」と言い切った。全ては、勝ったからこそ言えること。ドキドキの緊張感を経験した若鷹たちは、また一回りたくましくなった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)