甲斐の1号に「こんなことある?」 東浜も驚愕…オスナ&倉野コーチが語る“捕手陣の頑張り”

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】

待望のシーズン1号にベンチも騒然…両手で頭を抱えていた東浜の胸中は

 チームメートの評価は「世界一の捕手」だ。プロ13年間で積み上げてきたものが、見事にチームを勝たせた。ソフトバンクは28日、西武戦(みずほPayPayドーム福岡)を3-2でサヨナラ勝利した。延長12回2死満塁から、最後は西武バッテリーの捕逸で決着が着いた。4時間36分の試合を戦った中で、ホークスベンチが驚く一発を放ったのが甲斐拓也捕手だった。攻守で活躍した正捕手について、東浜巨投手、ロベルト・オスナ投手、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)の目線で、その存在感に迫った。

 先発は東浜。3回に1点を失うも、7回を投げて104球。「投げ急いだりもあって、状態としてはどちらかといえば悪い方でした」としながらも、「拓也(甲斐)に上手くリードしてもらいながら、粘り強く投げることができたと思います」と2学年下の後輩に感謝の思いを口にした。待望の勝ち越し点が生まれたのは7回2死。好投を続けていた隅田から、甲斐が左翼ポールに1号ソロを放った。

 この一発を何より驚いていたのがホークスベンチだった。オープン戦で2本塁打を放った甲斐だが、小久保裕紀監督から「ベンチも何が起こっているのかわからないような雰囲気になっていました(笑)」とイジられるほど。シーズン第1号に中村晃外野手も山川穂高内野手も飛び跳ねて喜んでいた。東浜も掲げた両手を後頭部に置いて、信じられない表情で打球を見つめていた。この時の心境はどんなものだったのか。

「あの打ち方で入るとは思わなかったです。2ストライクと追い込まれてもいたし、上手く打ったなと。ただビックリしました」

 打ったのはチェンジアップ。甲斐本人は「良かったです。巨さんも本当に頑張って投げて、試合を作ってくれていた。なんとか勝ちをつけたかった」と、お立ち台で照れ笑いも交えながら振り返った。東浜も「上手く(タイミングを)抜かれていたので、綺麗に乗ったなと。『こんなことある?』って思いながら見ていましたけど、打った拓也はさすが」と、驚きつつも深々と感謝していた。この時点で東浜には勝利投手の権利が舞い込んでいた。チームの勝利はもちろん、展開的にも嬉しい一発だったはずだ。

 同点とされた9回にはオスナが登板。1死から炭谷に安打を浴びると、西武ベンチは代走に山野辺を投入。次打者への初球に二盗を仕掛けられたものの、正確なスローイングでタッチアウト。得点圏への進塁を許さなかった。2死から内野安打で出塁した源田には二盗を許したが、リクエストの末に判定がセーフとなったもの。ここも完璧に近い送球を披露した。

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也(左)とロベルト・オスナ【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也(左)とロベルト・オスナ【写真:荒川祐史】

 オスナは加入1年目の昨シーズンから甲斐への信頼を口にしてきた。自身の投球で試合を締めくくった際の熱いハグは恒例行事となっている。この日の甲斐のプレーを振り返った守護神は「自分のキャリアでも1、2を争う世界一のキャッチャーだと思っています。野球で一番大事なことは対応していくこと。これからも何かがあれば僕たち2人で対応していきたいですし、信頼は変わらないです」と語る。MLB時代も含めて、オスナにとって甲斐の存在はそれだけ大きいということだ。

「サイン(配球)に関しても、ブロッキング、牽制と全てにおいて素晴らしいキャッチャー。アメリカにもすごいキャッチャーはたくさんいましたけど、甲斐はスペシャルです。コミュニケーション能力に長けていますし、いろんな投手に対して『どう?』『どう?』と声をかけています。自分の意見も聞いてくるし、彼の意見も言ってくれる。彼のいいところはコミュニケーションができて、いろんな引き出しと経験がある部分。すごくいいキャッチャーだと思います」

 倉野コーチにとっても甲斐は重要な存在だ。「当然大きいですよ。オスナがクイックせずに(二盗を)刺すくらいですから」。チーム防御率2.26、57失点はパ・リーグでもダントツの数字。「コミュニケーションもしっかりできていますし、意思疎通も取れている。投手だけじゃなくて、捕手、野手の守りも含めて今のところは上手く噛み合っていると思います」と、海野も含めた捕手陣の頑張りを高く評価した。

 先発した東浜は、バッテリーとしての一体感をより感じる試合だったと振り返る。「ミーティングでも、選手だけじゃなく高谷コーチや倉野コーチも含めて、1つになって抑えようという作業をやっている。選手個人というよりは、まとまって1つの方向に向いてやれているというのは感じます」。

ソフトバンク・甲斐拓也(左)と東浜巨【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・甲斐拓也(左)と東浜巨【写真:荒川祐史】

 同点の延長10回無死でベンチは甲斐に対し、三森大貴内野手を代打で送り出した。1点でも奪えば決着が着く状況だっただけに、小久保監督は「勝負をかけたというところ」と説明。積極的な采配について「あの状況で、前の打席にホームランを打っている甲斐に代えて海野を出せる。信頼みたいなものも含め、そういうところじゃないですか」と振り返った。接戦でも迷いなく捕手を代えられるのは、海野に成長を感じ取っているからこそ。豪華な打線に目が行きがちだが、バッテリーの充実がチームの首位を支えている。

 甲斐はお立ち台で「ファンの皆さんの声援のおかげだと思います。ありがとうございます」と感謝を述べた。東浜の「拓也が上手くリードしてくれたと思います」という言葉がファン、チームの思いを代弁していた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)