オスナが吐露「俺もしんどい」 栗原陵矢との熱い絆…2人がヒゲを剃った舞台裏の全て

ソフトバンクのロベルト・オスナ(左)と栗原陵矢【写真:竹村岳】
ソフトバンクのロベルト・オスナ(左)と栗原陵矢【写真:竹村岳】

14日の西武戦後、栗原が明かしたオスナの言葉「みんな待っているよ」

 チームメートは「家族」だから、手を差し伸べあった。気づいてほしかったのは、戦う時はいつだって1人ではないということ。「苦しんでいるのを横で見ていて、クリがいたから勝ったゲームもあるし。そんな考えすぎずに、絶対にうまくいくからという話はしました」と語るのは、ロベルト・オスナ投手だ。栗原陵矢内野手との“絆”、同じタイミングでヒゲを剃った舞台裏に、単独取材で迫った。

 栗原はオープン戦では16試合に出場して打率.222、3本塁打。開幕して以降は打率.188に沈み、本塁打もゼロだ。直近5試合では8安打を放つなど、復調の気配が漂ってきているものの、トンネルを抜けようと試行錯誤の日々を過ごしている。14日の西武戦(ベルーナドーム)で栗原がマルチ安打を放つと、明かしたのはチーム宿舎でオスナから声をかけられたということ。「みんな待っているよ」という言葉に、胸を打たれた。

 17日の日本ハム戦(エスコンフィールド)では、2点リードの延長11回にマルティネスに同点2ランを浴びた。オスナがヒゲを剃ったのは、その日の夜。1人で近くのコンビニに行き、シェーバーを購入した。栗原がほぼ同じタイミングで剃ることになったのは、偶然でもなんでもない。お互いに苦しんでいる胸中を理解して、寄り添い合う絆があるからだった。栗原が明かす。

「オスナと一緒に戦いたかったからです。オスナが剃っているのを見たので『一緒に頑張ろうぜ』って感じです」

 18日、札幌から福岡への移動のタイミングで、オスナに変化が表れていたところを目にした。栗原が剃ったのは、19日のオリックス戦の試合前。蓄えてきたヒゲでも「オスナが苦しい時でも味方でいてくれるからですね」とためらわなかったのも、伝えてもらった「1人じゃない」ということを今度は自分から伝えたかったからだ。ウエートルームで顔を合わせると、お互いに指を差して笑い合った。オスナも「最初にクリがヒゲを剃ったのを見た時は、率直に嬉しかった」と胸に手を当てて振り返る。

 オスナもここまで11試合に登板して0勝0敗、8セーブ、防御率4.09。この日のオリックス戦は9回に登板して1死一、三塁のピンチを招いたが、最後は代打・森を中飛に。中堅の周東の好返球で、なんとかゼロに抑えた。今季の自責点は「5」で、49試合登板だった昨年に早くも並んでしまっている。17日の日本ハム戦での2失点を踏まえて、ヒゲというわかりやすい形で変化を求めた意味を明かす。

「実際何かを変えたことによって劇的に変わることはないかもしれない。精神的な問題で、あることを変えたことによってきっかけになって変わることもあるだろうし、自分はそれもあって剃ったんだけど。クリもそれを見たのかな? 彼ももっといい結果を求めてやったのかもしれないし、俺に合わせてくれたのかもしれないけど、何かを変えるというのは気分転換にはいいことです」

ソフトバンク・栗原陵矢(左)ロベルト・オスナ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・栗原陵矢(左)ロベルト・オスナ【写真:竹村岳】

 埼玉県内のチーム宿舎で、栗原に声をかけたのも理由がある。「クリだけじゃないですけど、チームメートは基本的に仲良くやっています。なぜかというと、僕らは家族だから。仲良くしようと思っています」。昨オフ、去就が流動的になっても、ホークス残留を決めた最大の要因はチームメートの存在だった。打率1割台と苦しむ栗原の表情が「あの時は悲しそうに見えたし、他の人からも変なふうに見られているんじゃないかとクリも思っていたかもしれない」という。栗原に気づいてほしかったことが、たくさんあった。

「うまくいかないことは誰にでもあることですし仕方のないことなんだけど、例えば1人が良くても勝てないですから。クリが悪くなった時は僕らが助けるし、逆に僕らが悪くなった時にはクリに助けてもらう。そうやってチームというのは勝つもの。だから『考えすぎずに』『いい選手なんだから』っていうことは、けっこう長いこと話させてもらいました」

「球場には毎回、3万人や4万人の人が来る。僕らも人間だから、なかなかうまくいかない時もある。1日ダメでも、4万人の前で悪かっただけでそうやって(悪く)見られるし。それが1週間、2週間も続いたらもっとしんどい。クリはもっとしんどい思いをしたと思うし、俺もしんどいからその気持ちはわかる。でもやっぱり、こうやってお互いに支えていかないと仕事はできないし、いいチームを作るにはそういうことが大事なんです」

ソフトバンクのロベルト・オスナ【写真:竹村岳】
ソフトバンクのロベルト・オスナ【写真:竹村岳】

 うまくいかないことで塞ぎ込んでしまうのではなく、手を取り合うべきだと思った。日米で豊富な経験を積んできたオスナでも「特に野球っていうのはすごく難しくて、なかなか簡単に結果が出るものではない」という。試合以外の時間にあたる練習、練習以外の時間にあたるグラウンド外の時間、過ごし方の1つ1つがパフォーマンスに影響を与える。グラウンドに立つ以上、さまざまな条件を飲み込んで、チームメートとともに結果を出していきたい。

「クリもそうだと思うけど、思ったような結果が出てきていないから。やっぱり何かを変えなきゃいけないっていうのもわかるし、自分でも本当はもっといい結果を出したいんだけど、なかなかうまくいっていない。クリもそうだし、お互いに苦しんでいるんだけど、いつも一緒にいるチームメートも僕たちがなんとかしたいという気持ちはわかってくれていると思う」

「僕らがここにいるのには理由がある。いい選手だから1軍にいる。1週間悪い時があっても、2週間悪い時もある。最初の1週間が悪くても、他の時がダメというわけではない。いい時も悪い時もあるのがシーズンですし、そういうことをクリにもわかってほしかった」

 チームは首位をひた走っているものの、選手それぞれに戦いがある。秋に頂点に立つためには、絶対に欠かせない存在。スポットライトの下、心から笑う2人が見たい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)