「1軍の選手に食わせてもらっている」 鍬原拓也が激白…3桁という現状は「恥ずかしい」

ソフトバンク・鍬原拓也【写真:竹村岳】
ソフトバンク・鍬原拓也【写真:竹村岳】

昨オフに巨人を戦力外となりソフトバンクに入団…3月には唯一の“1軍登板”

 今の立場を「恥ずかしい」と表現する。育成選手という現在地を受け入れるしかないことも、ただただ悔しかった。ソフトバンクの鍬原拓也投手は、巨人から移籍して1年目のシーズンを送っている。背番号は174番。「ここにいる以上は1軍の選手に食わせてもらっているようなもの」と、悲壮な決意を語った。

 2017年にドラフト1位で、中央大から巨人に入団した。2022年には49試合に登板するも、それまでには2度の育成契約を経験するなど、栄光も挫折も味わった。昨オフに戦力外通告を受けると、ホークスに入団。ウエスタン・リーグでは6試合に登板して1セーブ、防御率2.45。「良い時と悪い時の差が激しい、波があるなという感じです」と、今の状態を語る。「良いところで投げさせてもらっています」と、緊張感のある場面を託されている。

 唯一の“1軍登板”が、悔いの残る内容となってしまった。3月のオープン戦、中旬から1軍に合流すると、17日の西武戦(PayPayドーム)で登板したが、0回2/3を投げて1失点だった。6回1死一塁からマウンドへ。コルデロに四球を与えると源田、炭谷に連続で適時打を浴びてしまった。育成という立場から与えられたチャンス。悔しい結果を受け止めている。

「あの時のピッチングが、あの時の現状だったんだと思います。気持ち的にも、体的にもボール的にも、あの時の現状がアレだった。良い意味で受け止めているというか。『なんでや』っていうのではなくて、ああいうボールしか投げられなかったんだと受け止めて、同じことを繰り返さないように、いい状態に持っていこうとしています」

 1軍帯同は「あの時点で、4日間しか行かないっていうのは決まっていたんです。投げるかもわからない状態でした」という。開幕1軍入りをかけた競争の最中、優先されるのは当然、支配下の選手であることもわかっていた。巡ってきたチャンスも「せっかくチャンスが来たっていうので、ちょっと空回りした部分もありました。かと言って、あの時に戻るわけでもないので」と今だから冷静に振り返られる。

 巨人時代にも、1軍のブルペンを支え続けた経験はある。ホークスの選手として、初めてPayPayドームのマウンドに立った。1軍にしかない緊張感、ファンからの目線……。「50試合くらい投げた年もありましたし、初めてというわけではないですけど『やっぱりここがいいな』っていうのは思いました」と決意が新たになる登板でもあった。そして「言っていいのかわからないんですけど……」と続けるように話す。通算80試合登板というキャリアがあるから、1軍と2軍の明確な違いを知っている。

「正直、ファームの試合で湧いてくるものはないですし、1軍のマウンドで投げるからこそ緊張感だったり、高揚感だったりが出てくる。実際のところ、ファームの試合でそういう感情はなかなか出てこないので難しいところはあります。だからと言って、自分のピッチングが変わるのは違いますし、それでも抑えないといけない。そんなことも言っていられないんですけどね」

ソフトバンク・鍬原拓也【写真:竹村岳】
ソフトバンク・鍬原拓也【写真:竹村岳】

 奈良県出身で「僕がしゃべらなかったら体調不良だと思われます」とも笑う。話していても負けん気の強さが溢れ出る、自他ともに認める“気持ちで投げるタイプ”だ。育成という立場である以上、どんな条件をも飲み込んで結果を出し続けるしかない。そんなことは本人が1番わかっているものの「僕の場合は気持ちで左右される。そこは直さないといけないところで、そういうところに気を取られているのは僕の弱さ」と、自分自身とも戦っているのが鍬原の現状だ。

「この環境に慣れてはいけないっていうのは、僕は身に染みてわかっているので。慣れないようにはしています、難しいんですけど。あの1軍のマウンドに立ってこそプロ野球選手。ここにいる以上は1軍の選手に食わせてもらっているようなもの。プロ野球選手とも思えないですし、恥ずかしいです」

 当然、自分の行動や立ち振る舞いが左右されるはずがない。2軍管轄の投手陣では板東湧梧投手、古川侑利投手、渡邊佑樹投手らと並んで年長者にあたる。「他の育成とは違うっていうところは見せないといけないです。これまでは上の人がいましたけど、下の子たちのお手本にもならないといけない年齢ですから。僕らがふざけていたら下もふざけるでしょうし、そこの自覚も持たないといけない」と日頃の過ごし方は“プロ”でいなければならない。2桁背番号にふさわしい選手でもあるために、1日1日を大切に過ごしている。

「育成だろうが支配下だろうが関係なしに、2軍にいるということはプロ野球選手としての仕事ができていないということ。それは恥ずかしいと思いますし、ここで満足していても稼げない。現状に満足しているとすぐに終わってしまうと思うので。今までは感じられなかったことを今は感じています」

 ドラフト1位の前田悠伍投手も、鍬原の存在を「お手本」と表現する。誰しもに認められて2桁になれるように“在り方”も求めていく。

(竹村岳 / Gaku Takemura)